田中裕子の醸す空気感は独特だ。余裕のある自然体とでも言おうか。それは魔性の女性でも人懐こいおばさんでも変わらない。公開中の映画「本心」では、死者をAIによってよみがえらせたVF(バーチャルフィギュア)という難役を演じている。田中の演技の秘密を探るべく、インタビューを試みた。
「本心」は平野啓一郎の小説が原作。石井裕也が脚本・監督を務めた。母親を亡くした男(池松壮亮)が最新のテクノロジーを用いて本物そっくりのVF(田中)を作る。ヘッドセットを付けると、母のVFが現れる仕掛けだ。
「自然体」という言葉は俳優の演技を形容する時によく使われるが、VFにおける自然体って何だろう。
「何でしょうね。私、VFがそもそも分かっていません。石井監督が説明して下さるんですが、それを聞いても全然分かりませんでした。監督の指示に従い、最低限やらなければいけないことをただただ明るくシンプルにやろう、ということしかなかったです」
無表情、でも涙がツーッと
VFには心がない。しかし…