「足りない」
神奈川県内に住む大学1年の男子学生(19)は先月、届いた56万円の振込用紙を見て、ため息をついた。大学から請求された半年分の学費は、諸費用を含めると、貯金してきた50万円では賄えなかった。
「バイト、増やさないと」。手元のスマートフォンで検索し始めた。
東京都内の私立大に通う。両親は共働きで、世帯年収は900万円ほど。3人兄弟の2番目で、兄は専門学校、弟は私立高に通い、学費負担は重い。
自分は高校も私立だった。公立を勧める両親に「やりたい部活がある」と無理を言って通わせてもらった。
家計に余裕は乏しく、大学入学前に両親から「奨学金を借りてほしい」と言われた。入学金と年度前半の学費は払ってもらったが、それ以降は自分で工面しようと決心した。
月額8万円の奨学金を借りている。国が2020年度に始めた給付型奨学金などの制度は、今年度から多子世帯(扶養する子が3人以上)も対象に広がったが、「年収約600万円未満」という所得制限があり、利用できなかった。
通学に片道2時間半。週1、2日ほどプール監視員のアルバイトをする。必要な単位の半分近くが取れず、憧れて入ったアメリカンフットボール部は休部した。今月は引っ越し作業など単発のバイトを増やした。
大学は第1志望ではなかったが、アメフトに本気になれれば、「来た意味があった」と思えるかもしれない。そんな思いで選んだ部活だった。年間6万円の部費と10万円以上する道具代も自分で支払ったが、仕方なかった。
奨学金は4年間で約400万円に上りそうで、卒業後に利子付きの返済が待つ。国の給付型奨学金は、来年度から多子世帯は所得制限が外れるが、兄が就職して扶養対象でなくなると、やはり対象外だ。
両親は3人を育てるために懸命に働いている。世帯年収が高いほど支援が細る今の制度があることで、働かない方が得だと言われているような気持ちになる。
男子学生は言う。「年収だけ見ると高いと思われるかもしれないけど、暮らしは楽じゃない。実情を見て支援してほしい」
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10年で10万円値上がり
95万9205円――。私立大の平均授業料は、この10年で約10万円上がった(23年度、文部科学省まとめ)。標準額(53万5800円)が決まっている国立大も、19年度以降に6校が、認められた上限(1.2倍)の範囲で値上げした。今年9月には、東京大も値上げを決めた。
一方、日本学生支援機構(JASSO)の調査によると、仕送りや学費負担など家族からの援助は年平均109万6900円(22年度)で、10年前の121万5200円より約12万円少ない。代わりに、アルバイト収入は年平均5万円以上増えている。
総務省の家計調査などをみると、この間、可処分所得に大きな伸びはない。学生への「仕送り」が減ったのは、物価高の半面、家計収入が増えていないことが背景にあるとみられる。
際立つ日本の公費負担の少なさ
授業料が上がる一因は国の支援縮小にある。
行財政改革の流れの中、国立…