論壇時評 宇野重規・政治学者
何か、異様な就任演説であった。イーロン・マスク氏やマーク・ザッカーバーグ氏ら、米国IT業界のトップを背にしたトランプ大統領の就任式は、あたかも富と影響力を誇示するかのようであった。
就任演説は、トランプ2.0を高らかに告げた。南部国境に国家非常事態を宣言した不法移民対策や、「掘って、掘って、掘りまくれ」と化石燃料に回帰するエネルギー政策の転換ばかりではない。性別を男女だけであると断定し、メキシコ湾を「アメリカ湾」に変更するなど、傍若無人であった。
フィリピンやハワイを併合したマッキンリー大統領に言及し、パナマ運河を取り戻すとも宣言した。米国の拡大を含意する「マニフェスト・デスティニー(明白な運命)」を口にして宇宙を語るトランプ大統領は、あたかも「惑星をも併合したい」と語った19世紀英国の帝国主義的政治家セシル・ローズのようであった。
ITコンサルタントの池田純一は、分散を主張してきたテクノロジストが権力を欲するようになったことに着目し、その象徴としてマスク氏を論じる《1》。今や実質的な副大統領として欧州諸国に介入するマスク氏もまた、現代版のセシル・ローズに映る。マスク氏が、ローズの暗躍した南アフリカ生まれだけになおさらである。
かつて「力の均衡」をモデルに米国外交を導いた元国務長官の故ヘンリー・キッシンジャーも生前、元グーグルCEOのエリック・シュミットらとともにAIと国家の未来を論じていた《2》。AIを所有・利用できる企業や一部の国だけがパワーを独占する時代にあって、国際協調は過去のものとなった。今後、デジタル空間における領土争奪戦が展開されるが、人々の忠誠心を獲得する宗教の復活を論じているのが注目される。
弱い基盤、政策も矛盾 政権運営は綱割りか
一方、現実の米国外交の行方…