アナザーノート

アナザーノート 経済部次長・江渕崇

 不確実性が高いことだけは確実――。そんな米トランプ政権の再来に、世界が身構えている。

 ただ、私たちの手元には前回の「トラックレコード」(運用実績)がある。過去の経験は必ずしも未来の姿を約束しないが、有力な手がかりにはなるはずだ。第1次政権期と重なる2017~21年、米ニューヨークに駐在して「トランプのアメリカ」を取材した経験から、かなりの確度で言えそうなことが一つある。

 権力者の身内や仲間がことさら優遇される「クローニー・キャピタリズム」(縁故資本主義)の色彩を、米国が一層深めていくだろうということだ。

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 18年夏の、ある光景を思い出す。巨大工場の起工式にトランプ氏がやってくると聞き、中西部ウィスコンシン州に取材に出かけたときのこと。

 「あれ、マサだよな。どうしてここにいるんだ?」

 隣にいた米メディアの記者が、驚きのあまり声を上げた。トランプ氏と一緒に、なぜかソフトバンクグループ(SBG)の会長兼社長、孫正義氏が登場したのだ。

 この工場は、iPhoneの受託生産で知られる台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)が計画していた。外国企業として史上最大級となる100億ドル(当時のレートで約1.1兆円)超を投資し、最先端の液晶パネル工場を建てるという触れ込みだった。

 孫氏は、その鴻海を率いていた当時会長の郭台銘(テリー・ゴウ)氏と、かねて盟友関係にあった。米国進出をうかがう郭氏と、鴻海の巨額投資を自身の手柄にしたいトランプ氏。ふたりの間を取り持ったのが孫氏だった。

鴻海の工場起工式の会場でスクリーンに映し出された左からトランプ、郭台銘(テリー・ゴウ)、孫正義の各氏=2018年6月、米ウィスコンシン州、江渕崇撮影

 式典の壇上で「テリーについて何かしゃべって」とトランプ氏に促された孫氏。「私たちは最良の友であり、兄弟です」と郭氏との仲を表現した。

 するとトランプ氏は「それなら俺は何なの?」と割って入った。孫氏はあわてて「もちろん(あなたも)ですよ」と応じた。

 壇上で交わされた、どうということもない社交辞令。しかし、孫氏が口にした「友」「兄弟」といった表現は、今思えばトランプ政権の本質を突くものだった。

アジアやロシアだけでない「縁故資本主義」

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