2024年11月の米大統領選では、アラブ系有権者の多くが長年支えてきた民主党から離反し、共和党のトランプ前大統領に投票した。舞台裏では、トランプ氏の側近らが地域社会に通い、「どぶ板」選挙を繰り広げていたという。

 米中西部ミシガン州ディアボーンは、アラブ系住民の多さで知られる。選挙まで2週間を切った10月23日、レバノン系米国人の実業家マサド・ブーロス氏を地域社会のリーダー約40人が迎えた。

 地元の商工会トップのフェイ・ネマーさんによると、参加者はパレスチナ自治区ガザとレバノンでの恒久的な停戦を訴え、具体的な確約を求めた。イスラエルが2006年に侵攻した直後のレバノンで生まれたネマーさん自身、国内避難民として各地を転々としたあと10歳で家族と米国に移住しており、レバノンでの戦争は常に自分事だ。

ブーロス氏とじっくり2時間半、ハリス陣営とは…

 ブーロス氏は2時間半、参加者の話をじっと聞いていた。多くは語らなかったが、人命の損失を止めることがトランプ氏の目標で、彼は平和をもたらすのだ、と前向きな話だけをしたという。

米ミシガン州ディアボーンで2024年11月1日、トランプ前大統領(中央)とブーロス氏(右)を迎えたアルバート・アッバスさん=AP

 その3日後、トランプ氏はX(旧ツイッター)に「中東に真の平和、永続的な平和を取り戻したい。苦しみと破壊が5年、10年ごとに繰り返されぬよう適切に成し遂げる!」と書き込んだ。さらに選挙の4日前にはディアボーンを訪問した。

 トランプ氏の訪問は、商工会の対外窓口を務めるアルバート・アッバスさん(42)がブーロス氏を通じて招待し、実現した。アッバスさんが「あなたに希望を託し、レバノンとパレスチナで平和が花開く時代を思い描いている」と語ると、隣に立ったトランプ氏は「戦争を終わらせなければならない」と応じた。1期目に「反イスラム」政策を連発したトランプ氏がイスラム教徒の住民の歓迎を受ける映像は、世界に配信された。

 ネマーさんもアッバスさんも9月まで投票先を決めかねていたが、ブーロス氏の訪問をきっかけにトランプ氏に投じた。

 ブーロス氏とは、どんな人物なのか。

 トランプ氏の次女ティファニ…

共有
Exit mobile version