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寄贈された和歌の巻子の一部=2025年2月4日午後2時27分、舞鶴引揚記念館、今林弘撮影

 シベリア抑留者の生活や引き揚げの歴史を今に伝える舞鶴引揚記念館(京都府舞鶴市)に入ると、当時の「リアル」が迫ってくる。それを支えるのは、寄贈された体験者の手記や遺品だ。2023年度に記念館が受け入れた新収蔵品展が今年も開かれている。

 「三キロの 黒パン一つ 十二人 わける食事の むつかしさかな」

 幅約4・4メートルの巻子に、シベリアでの抑留生活の様子をよんだ50首を超える和歌が並ぶ。

 寄贈した千葉県白井市の島田幸さん(45)によると、祖父で書道家の村松栄次さんが生前の60歳のころに開いた個展で出した作品という。

 記念館によると、栄次さんは1947年にシベリアから舞鶴に引き揚げた。だが、幸さんの記憶では、抑留の経験をほとんど聞いたことがない。不思議に思っていると、父が「人に話すと夢に出てくるらしい」と教えてくれた。

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寄贈された当時のスナップ写真。引き揚げ船を出迎えるため、定期船に乗る市民ら=舞鶴引揚記念館提供

 そんな栄次さんが、小学生だった幸さんに体験を語ったのが、この黒パンの和歌についてだ。

 「みんな命は大事。それだけに平等に扱うことは難しい」

 他人のことを悪く言わない祖父の性格を知る幸さんは「黒パンは本当に激しい取り合いだったのでしょう」と今も思う。

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寄贈された和歌の一部=舞鶴引揚記念館提供

 栄次さんの家を取り壊す際、この作品を探し、たんすの奥から見つけた。両親と相談し、シベリア抑留がテーマの映画「ラーゲリより愛を込めて」で知った記念館への寄贈を決めた。

 寄贈したなかには、こんな和歌もあった。

 「黒パンで替えてほしいと …

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