取るに足らないジョークのような何かだったはずなのに、不思議と心を動かされる出来事というものは時々ある。
7日、都内で行われた日本将棋連盟の第75回通常総会。1年に1度、棋士たちが一堂に会して様々な事項について論議する機会である。
冒頭、恒例となっている「新会員あいさつ」の時だった。
新人棋士4人が出席棋士全員の前で自己紹介する時間の最後にマイクを握ったのは24歳の高橋佑二郎四段だった。
高橋はあいさつを終えると、歌った。
連盟会長の羽生善治九段、藤井聡太名人、谷川浩司十七世名人らの眼前でサザンオールスターズの「真夏の果実」をアカペラで響かせたのだ。
カラオケ好きな師匠・加瀬純一七段の十八番(おはこ)であるという名曲。「四六時中も好きと言って」と堂々と歌い上げ、嵐を呼ぶ姿には照れも恥じらいもなく、決然とした覚悟のようなものがあった。
ほとんど手を伸ばせば届きそうな距離にいる藤井名人は伏し目になって爆笑をこらえ、サザンファンの谷川十七世名人も笑顔を見せている。
近年の新会員あいさつでは、新四段が何かしら冗談を言ったりして会場を湧かせるのが定跡化しているが、およそ将棋界に縁もなさそうな歌を大真面目に歌い上げるというのはかつてない挑戦だったのかもしれない。
感じ方はそれぞれかもしれないが、無難にまとめるのではなく、前例のないことを恥も外聞もなく実行するのは、批判を恐れて萎縮しがちな時代において、とても堂々とした行為に思えた。少々大げさに言えば、勝負師としての将来性を感じさせるような何かだとも思った。
羽生会長は閉会後の会見で高橋の歌について聞かれると、満面の笑みになり「最近のあいさつは何かしらアピールしていこうという傾向があるのかなと。皆さんが個性を発揮して活躍することを期待します」と歓迎した。
なぜ歌ったのか。
なぜ「真夏の果実」だったのか。
目の前に150人もの先輩棋士が並ぶ中で歌っている時、何を思っていたのか。
どうしても高橋に聞いてみたかった。
なぜ150人もの先輩棋士たちの前で堂々と歌えたのか。マイクを使わなかった理由は。真の十八番は。周到の事前研究の数々を高橋新四段が語ってくれました。
総会から一夜明けた8日、高…