転職した約20年前、初任地の新潟で味わった白米がおいしかった。「さすがコシヒカリの本場」と思いきや、生誕の地は福井だと聞き、驚いた記憶がある。その福井が「ポストコシヒカリ」と銘打つのが2017年に生まれた「いちほまれ」。新しいブランド米に込められた思いをたどった。
JR福井駅から車で約20分。コシヒカリを生んだ福井県農業試験場(福井市寮町)は田園地帯の中にある。1956年、試験場長だった石墨慶一郎博士らが開発した。
本館の正面で「コシヒカリの里」と書かれた記念碑に迎えられる。施設に入ると「農業試験場はコシヒカリを生みました」と書かれたポスターも。作付面積日本一に君臨する品種を生んだプライドが伝わってくる。
ただ「福井のコシヒカリ」は市場の評価で、新潟産(魚沼産など除く一般)に対し、負けが込んでいた。直近の2月の農林水産省の小売価格調査では、福井産コシヒカリが2108円(富山産2060円、石川産1997円)と、2085円の新潟産を超えたが、長年下回ることが多かった。
発祥の地でありながら、知名度も評価もトップとはいえないもどかしい現実。そんな中、新たに「福井の米」の看板を背負うのが「いちほまれ」だ。
開発のきっかけは、2000年ごろの猛暑だった。稲は約3万個の遺伝子を持つといわれる。コシヒカリは暑さに弱く、「いもち病」にかかりやすいとされ、稲も約90センチと長くて倒れやすい。そんな課題を克服する遺伝子を持つものを厳選して掛け合わせ、20万種を育成した。
11年5月には場内に「ポストコシヒカリ開発部」が発足。掛け合わせて育てた稲から、望ましい特徴を備えたものを選抜していく。1万2千、2千、100、10、4――。16年12月、ついに一つに絞った。
コシヒカリのようなツヤと粘りがあり、炊きあがりは真っ白。一方で、稲は10センチ余り短く倒れにくい。準備期間を含め、11年がかかった。
おいしさの陰に「利きコメ」達人
「おいしさ」の選抜で力を発…