現場へ! 走れSL⑤
南アルプスを源流とする大井川に沿って北上する大井川鉄道が、本流にかかる赤い鉄橋を渡る「大井川第一橋梁(きょうりょう)」(静岡県島田市)。5月中旬の正午過ぎ、高い汽笛とともに下りのSL「かわね路号」が新緑をかきわけるようにして姿を現した。四季折々の自然を背景に、黒煙をたなびかせながら客車を引っ張る力強い姿が見られるとあって、市内指折りの観光スポットだ。
大井川鉄道が全国に先駆けてSLを観光用に復活させたのは、国鉄が定期運行を終えた7カ月後の1976年7月。木材積み出しやダム建設でにぎわった沿線も過疎化が進み、乗客は減る一方だった。SLを走らせながら保存する「動態保存」の試みは見事に当たり、全国から鉄道ファンや観光客が押し寄せた。SLの関連収入は全体の9割を占めるまでに膨らんだ。
最初の危機は2011年の東日本大震災後に訪れた。自粛ムードで客足が鈍っているところに、12年の関越道バス事故をきっかけに国土交通省がワンマン運転のバスの走行距離規制を強化。首都圏からの多くの日帰りバスツアーが不可能となり、11年度から3年連続の赤字に落ち込んだ。
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