実験の様子。動かすハンドルは画面の下にあり、直接見えないようになっている=NICT提供

 サッカーのPKで、練習なら簡単にゴールが決まるのに試合では決まらないのは、脳が別の運動として捉えているからかもしれない――。そんな研究結果を、情報通信研究機構(NICT)などの研究グループが発表した。スポーツの練習方法のヒントになりそうだ。

 研究グループは「迷い」の有無で運動の学習に違いが出るかどうかを実験した。

 被験者(38人)に画面に表示される多数の点の動動きを見て、ロボットハンドルをまっすぐ横に動かすよう指示した。点が全体として右に動いていると判断すれば右向きに、左に動いていると判断すれば左向きに動かす、という具合だ。

実験のイメージ。ハンドルがまっすぐ横向きに動かせないよう、縦向きの邪魔な力をかけた=NICT提供

 ハンドルには真横に動かないよう縦向きの力が加わるようにし、その力に対抗して真横に動かすやり方を学習できるかを試した。

 実験では、被験者を①全て(100%)の点が同じ向きに動く、わかりやすい画面を見せた「迷い無し」グループと、②点の3%だけ同じ向きに動き、他の点はばらばらに動く画面を見せた「迷いあり」グループに分けた。どちらのグループも数百回繰り返すことで、ほぼ100%まっすぐ横に動かせるようになった。

 次に、同じ向きに動く点の割合を変えながら同様の実験を行った。

 すると、「迷いなし」グループは、同じ向きに動く点の割合が減るほど(迷いやすくなるほど)成功率が下がった。逆に、「迷いあり」グループは、同じ向きに動く点の割合が増えるほど(迷いにくくなるほど)、成功率が下がった。

 迷いやすさが変わることで、学習した運動ができなくなったということだ。

実験の結果を示したグラフ。「迷いあり」グループは迷いにくい状況、「迷いなし」グループは迷いやすい状況の時にハンドルをうまく動かせなくなった=NICT提供

 これは脳が、運動を事前の「迷い」とセットで記憶しているため、「迷い」の状態が異なれば別の運動をしていることを意味しているという。

 たとえばサッカーのPKであれば、キーパーがいないゴールの隅に蹴る練習を繰り返してシュートの技能が向上したとしても、試合でキーパーがいてどこに蹴るか迷いが生まれる状態では、練習と同じようには蹴れないということになる。

 NICT・脳情報通信融合研究室の羽倉信宏主任研究員(認知神経科学)は「これまでは同じ動作なら脳から出る指令は同じだと考えられていたが、そうではないことが分かった。様々な場面を想定し、迷うことをセットにした練習が有効かもしれない」と話す。

 実は、今回の結果は、羽倉さんらが立てた仮説とは異なるものだった。

 仮説は、自信があると、うま…

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