インタビューに答える東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉悠さん=2023年11月21日、東京都港区、上田幸一撮影
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 第2次大戦で、旧ソ連軍は「赤いナポレオン」が考案した「作戦術」で旧日本軍を蹂躙(じゅうりん)した。そのDNAを受け継ぐはずのロシア軍が、なぜウクライナで泥沼の戦争を続けるのか。東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉悠さんに聞いた。

 物量に頼るイメージが強いソ連軍の軍事作戦だが、「実際はそれだけではありません」と、小泉さんは指摘した。

 兵力の配置と補給を組み合わせ、最適なタイミングと順番でぶつけることで、敵を壊滅させる大きな打撃力を生み出していたのだと言う。この用兵術を理論化したのが、「赤いナポレオン」と呼ばれたトゥハチェフスキー元帥だった。

 冷戦後、プーチンは軍のコンパクト化を打ち出しながら、改革が中途半端なままウクライナ戦争に突入してしまった。

 小泉さんは「正規軍がソ連軍の遺産をちゃんと継げていないが故に、もっと古くて野蛮な体質が前面に出てきてしまったようです」と語る。

 統一的な行動ができないまま国境の3方向から各部隊がバラバラに侵攻した末、短期決戦の思惑が外れた。

 独ソ戦勝利の記憶に固執する「赤いナポレオンの亡霊」と、2014年に難なくクリミア半島を制圧できた成功体験の二つが、組織内に残っていたための判断ミスではないか。小泉さんはそう分析している。

 「2014年のクリミア併合の時は3週間で半島を制圧し、ロシア側はほぼ無血のまま、住民投票の形を取って併合を宣言しました。『あの超巨大バージョンができる』と思ってしまったようです」

 しかし、待っていたのは頑強な抵抗だった。

 「結局、独ソ戦のような軍隊同士の『殴り合い』になった。作戦術はできずに『地金』をむき出しにしたロシア軍に、ウクライナ軍は『動員』という極めて古臭い方策で対抗している。塹壕(ざんごう)にこもって膨大な砲弾を浪費する『第1次大戦型』の戦いと、ドローンやSNSを活用した『ハイテク戦争』が併存しています」(永井靖二)

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