病院にやって来た、低カルシウム血症の女性。ナイジェリアでは食料が高騰しており、十分に食事を取れていない人が多い=ニューヨーク・タイムズ

Nigeria Confronts Its Worst Economic Crisis in a Generation

 ナイジェリアは、ここ数十年で最悪の経済危機に直面している。急激なインフレ、暴落する自国通貨、食べ物の購入にもがき苦しむ数百万人もの人々――。わずか2年前まではアフリカ最大の経済大国だったのに、2024年は4位に転落すると予測されている。

 痛みは広範囲に及ぶ。労働組合は、月に20ドル(約3千円)ほどの給与に抗議してストライキを構える。人々は、無料の米袋めがけて殺到し、下敷きになって命を落とす。病院は、カルシウム欠乏によるけいれんに苦しむ女性であふれかえっている。

 この危機は、1年3カ月前に選出された現大統領が実施した二つの大きな変革、すなわち、燃料補助金の一部廃止と、通貨の変動相場制への移行に原因があると考えられている。この二つが相まって大幅な物価高につながったからだ。

 2億人超の国民は、通常なら国家が提供するはずの公共サービスなしに、厳しい状況を切り抜けることにたけている。自分たちで発電し、水を調達する。軍隊の代わりに、武器を取ってコミュニティーを守る。家族が誘拐されれば、誘拐犯とも交渉する。

 しかし、その臨機応変の才[resourcefulness]も、もう限界まで使い切られようとしている。

 ある朝、ナイジェリア第2の都市カノにあるムルタラ・ムハメッド専門病院の救急処置室でのこと。国の北部では最大のこの救急処置室に、痛みを伴うひどいけいれんのため、話すことすらできない女性が3人いた。栄養失調による低カルシウム血症は、これまでだったら年に1~2例の発生だった、と医療従事者のサリス・ガルバ氏は言う。親切なガルバ氏は、ベッドからベッドへ、病棟から病棟へと飛び回りながら、せわしなく働いていた。

 しかし、今では毎日、複数の症例を診ているという。困窮のため食料を買うことのできない人が増えているからだ。

 ガルバ氏は女性たちの夫を観察していた。何であれば買えそうか、経済状況に合わせて、異なる栄養源を勧める。例えば、貧しい人にはバオバブの葉やタイガーナッツという木の実を、もう少し余裕がある人には骨を煮たものを。牛乳を買える人なんてここに来ていないさ、と彼は笑った。

  • 【注目記事を翻訳】連載「NYTから読み解く世界」

ナイジェリアでは多くの人々が苦しい生活をしています。その実態をNYTの記者が追いました。

写真・図版
サリス・ガルバ氏。ナイジェリア第2の都市カノの病院で=ニューヨーク・タイムズ

■貧困ライン以下の人口、世界…

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