23年前に発覚した青森県住宅供給公社を舞台にした巨額横領事件で話題になったチリ人妻こと、アニータ・アルバラード(51)。公社元職員で夫の千田郁司(ちだゆうじ)(67)から彼女に流れた8億円以上の横領金(千田は約11億円と供述)はいったい、どこに消えたのか。

  • 【前回はこちら】アニータさんは「闘う女性」か「色物」か チリで聞くと格差が見えた

 南米チリの首都サンティアゴ郊外に向かうと、遠くにアンデスの山々が連なって見えた。

 警備員が車の出入りをチェックする高級住宅街のゲートを抜け、舗装された道路を10分ほど走ると、その「豪邸」は姿を現した。

アニータが建てた「豪邸」。青森県住宅供給公社に差し押さえられ、現在は別の所有者のものとなっている=2024年7月、サンティアゴ市内、坂本泰紀撮影

青森県住宅供給公社の巨額横領事件とは

23年前に発覚した青森県住宅供給公社を舞台にした14億円超の巨額横領事件。当時、青森支局員だった記者が、刑期を終えた元公社職員に50時間を超えるインタビューを行いました。彼が語った事件とは。連載の後半では、金を受け取ったとされるチリ人妻から届いたメッセージも紹介します。記事中の敬称は省略します。

 パルテノン神殿を思わせる巨大な柱が、正面玄関にズドンと並ぶ。アニータが横領金で建てたかつての邸宅だ。

彼女は2002年に発刊された自伝「わたしはアニータ」(扶桑社、轟志津香訳)で、この邸宅について書いている。

 「子供の頃、映画『風と共に去りぬ』を見たことがあった。(中略)その映画は私の心にしっかり刻まれていて、家を建てると決めたとき、すぐに主人公の家を思い出した。私は普通の家ではなくて豪華な邸宅が欲しかった。(中略)私がすべてを自分一人の力で手に入れた、ということを証明したかった」

 「邸宅は一年半かかってでき上がった。工事がほとんど終わった頃、なにも知らない郁司がチリへやってきた。(中略)その日、彼は私に与えたお金の大半が大邸宅に姿を変えたことを知ったのだった」

 結局、このアニータの「夢」の邸宅は、資産の回収にあたった青森県住宅供給公社が差し押さえ、競売代金約7300万円が公社に戻った。

 その後、テレビのドラマ撮影にも使われ、現在は、別の所有者が暮らしているようだった。

 この住宅街に住む男性は「私が来た時、ちょうど彼女の家から家財道具が運び出されていた。今となっては、ここで彼女が話題にのぼることはないよ」と語った。

「アニータのハーレムのような店」

 アニータは横領事件の発覚当…

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