フィルムカメラで撮影したモノクロ写真を暗室でプリントし、思い浮かんだ言葉を文章にする。そんな独特の作品を集めた個展が29日まで、福岡アジア美術館(福岡市)で開かれている。
「先人が築いたアナログ写真の文化を残し、それを知らない若い人たちに伝えたい」と個展を開いたのは、福岡市の創作写文作家サジキハラ テツさん(42)。「写文」は写真と文章の融合という意味があるという。
4度目となる今回の個展のタイトルは「暗誨(あんかい)の燬(き)」。暗誨は、月が隠れた時の夜の暗さ、燬には、ろうそくの火という意を込めた。福岡県糸島市の海辺で、漁船や海岸線を満月の光だけで撮影した作品など、約30点を展示。それぞれの写真をプリントしている間、イメージが湧くという。「燃えさかる情熱は 心と体を溶かし続ける。」などと文章にし、写真のパネル横や下に添える。
プリンターは使わない。アナログ写真にこだわり、自ら現像したフィルムを自宅に作った暗室で紙焼きする。現像液を通常よりも薄め、印画紙の現像時間を延ばす「リスプリント」と呼ばれる技法を用いる。普通のモノクロ写真に比べて、セピア調の写真に仕上がるという。
暗室作業用の赤いセーフライトの下で、長時間かけて浮かび上がってくる写真の状態を見極める。現像液の濃度や露光時間などのデータを取り、条件を変える。満足な仕上がりになるまで「失敗を繰り返し、技術が培われていくのが魅力」といい、「モノクロの美しさを見て、共感してもらえたら」と期待する。
幼い頃から絵が好きだったサジキハラさん。画家を志したが、20歳を過ぎ、夢をあきらめて就職した。絵に近いものを求め、デジタルカメラを購入、趣味として楽しんでいた。
10年前、他界した父の遺品にコニカのフィルムカメラがあった。友人を撮影すると、デジタルにはない、味のある写真が撮れたという。アナログ写真の魅力にとりつかれた。
北九州市の写真館に足を運び、フィルム現像や暗室技術を学んだ。モノクロ写真を紙焼きすると、自分が見た「色」が表現でき、画家になりたかった気持ちがよみがえった。写真を見る人は、モノクロだからこそ、それぞれに想像してもらえる。そこに「共感」が生じる、という。
手軽に写真が撮れるデジタルカメラには、「きれいな所に連れて行け、きれいに撮ってやるよ」と言われているような気がする。アナログなフィルムカメラは、画像確認もできず、使いこなさなくてはならない。「カメラと自分の気持ちがリンクしてくる」
福岡アジア美術館7階企画ギャラリーCで、9時半~18時(最終日は17時まで)、金土は20時まで。入館は無料。(山本壮一郎)