4歳くらいの頃、よくおねしょをした。
怒った母に服をはぎ取られ、部屋の隅に放り出された。素っ裸で震えていると、布団に招き入れてくれるのは、いつも父だった。
布団の中は暖かかった。「お父ちゃんは救世主に見えた」と、藤岡美千代さん(65)は振り返る。全身をなで回されるのは、「温めてくれているんだ」と思っていた。
父は時に、娘の性器にも触れた。言葉にできない違和感だけが残った。
- 【連載はこちら】「首を斬る快感」語るおやじ 武田鉄矢さんと父の物語
戦争でトラウマを負った元兵士たちの家族の苦しみを描いた連載に登場したある女性。今まで他人に話してこなかった記憶がありました。記事後半にはインタビュー動画もあります。
父は復員兵だった。
21歳で出征し、シベリア抑留を経て帰国したという。そして、藤岡さんの記憶の中の父は、いつもお酒を飲んでいた。
酔うと上機嫌で戦場の手柄話をした。敵の砲弾が降る中、トラックを運転して救援物資を運んだ――。繰り返し同じ話を気かせ、子どもの注意がそれると声が怒気を帯びた。
藤岡さんをひざの上に乗せ、おちょこの酒をなめさせることもあった。そんな時は服の中に手を入れられ、体をまさぐられることもあった。母や兄がいても、お構いなしだった。
よみがえる戦場の恐怖
藤岡さんが小学校に上がるこ…