連載「レッツ・スタディー!」演劇編 泉綾乃さん①

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舞台「真夏の夜の夢」での泉綾乃さん=2022年、泉さん提供

 NMB48メンバーが舞台芸術の魅力を紹介するコラム「NMB48のレッツ・スタディー!」演劇編第6回。2018年、中学2年生で「ドラフト3期生」としてNMB48に加入し、現在、中心的なメンバーの一人として活躍している「あーのん」こと泉綾乃さんが初登場。22日は20歳の誕生日でもあります。「アイドルとして殻を破り、大きく成長できたきっかけがお芝居との出会いです」といいます。その出会いが泉さんにもたらしたものとは――。

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感情表現に苦手意識…お芝居とは縁のなかった私が

いずみ・あやの 2004年、京都府生まれ。NMB48チームNのメンバー。愛称あーのん。趣味は「ダンス、音楽鑑賞、ベース、韓国語の勉強」など。

 皆さん、初めまして!

 NMB48の「あーのん」こと泉綾乃と申します。メロンパンと踊ることが大好きなカワウソ似のアイドルです。

 私と演劇の出会いは、NMB48に加入してからになります。

 昔から兄や父、母が好きだったアニメやドラマをテレビで一緒に観たりはしていたものの、舞台観劇などには行ったことがありませんでした。そもそも、気持ちを表に出すのが苦手で、感情表現の薄い私には無縁のものだと思って過ごしていました。

 2021年ごろ、NMB48の中で、希望者を対象に演技レッスンが始まるという知らせを聞きました。コロナ禍の時期です。その頃、劇場公演やライブ、各種イベントなどで多忙だった日常に、突然ぽっかりと大きな穴が空いたような日々が続いていました。

 「お芝居か……」。少しだけ興味はわいたものの、やりきれる自信もないしなあ、と思っていたところ、マネジャーさんから「参加しないの? してみない?」と。

 このとき背中を押していただいたことが、今思えば運命的な出来事でした。その頃、アイドルになって3年ほど。舞台に第二幕があるように、私もアイドルとして新しい世界を知り、次のステップを踏むタイミングだとマネジャーさんは思ってくれたのかも知れません。

 私は小さい頃からアイドルになるのが夢でした。「アイドルなら踊れた方がいいよね」と小学3年から加入する中学2年までの5年間、ヒップホップダンスを習っていました。

 だからダンスには少し自信があったのですが……。私がやってきたヒップホップダンスと、アイドルがするダンスは見せ方や型がだいぶ異なり、最初は苦労の連続でした。憧れていたアイドル。「こんなにも難しく大変なものだったのか」と感じ、加入して1年ぐらいは涙ばかりの毎日を過ごしていました。

想像以上に大変だ! 初めての演技レッスン

 正直なところ、お芝居のレッスンは、アイドルになった当初の苦労とは比較にならないほどの難しさでした。もともと声が小さい上に、台本を読んでみればほぼ棒読みで、「ひどかったなぁ~」と今も思い出します。

 最初は、おなかの底から声を出す発声の練習をひたすら繰り返しました。普段のアイドル活動の中ではあまり出さないほどの大きな声。おなかをひたすら使って、疲れました。それでも下手なりに少しでも上達しよう、とひたすら頑張り続ける日々でした。

 そんななか、初舞台のお話がきました。2022年5月に上演されたシェイクスピアの代表作「真夏の夜の夢」です。

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舞台「真夏の夜の夢」のキャスト=2022年、泉綾乃さん提供

 初舞台でシェイクスピアの作品? しかも私に任されたのはヒロインのハーミア役。それはもう、大変なプレッシャーでした。

 舞台は、アテネ郊外の森の中。ハーミアが恋仲のライサンダーと駆け落ちするところから物語は始まり、そのハーミアに思いを寄せるディミトリアス、そしてディミトリアスに恋するヘレナがその後を追いかけます。しかし、いたずら好きな妖精が森に持ち込んだ「魔法の花」に幻惑され、4人の恋は大混乱に。そこへアテネの職人たちでつくる劇団が加わり、笑いあり涙ありのドタバタ恋喜劇となっています。

ハーミアとはどんな子? 稽古の中で見えてきた人物像

 私が演じるハーミアとはどんな子なのか?

 台本が読み込んでみてもすぐにはわかりません。声で読み上げてみても、やはり棒読みの感じはぬぐえません。これで舞台に立てるのだろうか……と不安にとらわれていたところで、ついに稽古が始まりました。

 それは、プロの俳優さんたちのすごさを実感する場でもありました。セリフとはわかっていながら、相手役の俳優さんが述べた言葉に本気でうれしくなったり、逆に悲しくなったり。文字で読んだときはさらりと読み流していたセリフや描写が、そこに演者さんの気持ちと表情、そして声が乗ることによって胸に迫る場面になっていたのは驚きでした。

 私は事前に「このセリフは、こういう感情で、こう読むとしよう」とある程度頭の中でイメージをして臨みましたが、それがあまり意味のある作業ではなかったことにすぐ気付きました。相手の俳優さんのセリフを聞いて、そのとき生まれた感情に素直に従うべきだと感じたのです。

 私は感情を表現するのが苦手だと前のほうで書きました。気持ちを内側に秘めてしまうタイプです。でもその分、他人の心の動きにも注意が向くというか、顔で笑って心で泣いているかも知れない人の胸の内、そして言葉の中に込められた微妙なニュアンスなどを自分の中で想像してしまうことがあります。

 俳優さんが稽古中、セリフに込めた思いや感情が、私にはくみとれるような気がしました。それは、「私はどんな感情を返すべきか」という解にもつながっていったのです。

 そうやって稽古を積み重ねるなかで、私自身のハーミアへのイメージも確立し、自然と役に入り込んでいくことができました。天真らんまんで少し天然なところがある子。ちょっとしたことに喜び、そして悲しむ、感情の忙しい子。私はハーミアになりかわって、感じたままを表現したらいいんだと。

「しょせんアイドル…」とは言われたくなかった

 ただし、その境地に至るまでの道のりは、もちろん楽ではありませんでした。もともとは16世紀末の作品です。昔ならではの難しいセリフ回しもあるし、歌唱シーンもありました。毎稽古必死だったのが現実です。

 頭ではわかっていても、セリフに思いを乗せることは本当に難しいことでした。掛け合いのテンポ、セリフとセリフの間の取り方。必ずしも正解のないテーマも多くあります。

 でも、そんな大変な期間を乗り越えるために自分の中で強く思っていたことがあります。それは「アイドルだから演技が下手でも仕方ないよね」とか「しょせんアイドルだな」とは絶対言われたくないということでした。

 そのために私は毎稽古、必ず「吸収できることはとことん吸収しよう」ということを意識して取り組んでいました。

 アイドルをしている時もお芝居をしている時も、リハーサルや稽古はとてもしんどいものです。あきらめて逃げたくなることもあります。ですが、本番のステージからみえる景色の美しさと、本番でしか感じることのできない空気感が、私は好きです。だから、どんなに苦しくても自分は頑張り続けられるのだろうな、と思っています。

アイドル一筋だった私が…縁とは不思議なもの

 この「真夏の夜の夢」という素敵な作品との出会いをきっかけに「お芝居をもっとしたい!」という思いがあふれ、この舞台の後もコメディー系の舞台やミュージカルにも出演させていただくことができました。小さい頃からアイドル一筋だった私が、お芝居で役を演じ、物語を作り上げる側に立つことになるとは想像もしていませんでした。縁とは不思議なものだと思います。

 来年(2025年)2月から3月にかけて東名阪を巡る「キャッシュ・オン・デリバリー」というコメディー舞台への出演も、ありがたいことに決定しています。

 アイドルとしても女優としても頑張る泉綾乃のことを、これからも温かく見守って応援していただけると嬉しいです。

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 いずみ・あやの 2004年、京都府生まれ。NMB48チームNのメンバー。愛称あーのん。趣味は「ダンス、音楽鑑賞、ベース、韓国語の勉強」など。(構成・阪本輝昭)

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