ミステリー小説でベストセラーを放ち、ミュージシャンとしても活動する作家の道尾秀介さん。近年は体験型の犯罪捜査ゲームでも人気を博し、活躍の場をさらに広げています。原点にある「みっつ」を聞くと、忘れがたい思い出を語ってくれました。
道尾秀介さんの「みっつ」
①宗次郎さん(オカリナ奏者)の音楽 ②金田一耕助 ③沼津のバイク屋さん
《最初に挙げたのは、日本を代表するオカリナ奏者・宗次郎さんの音楽だった》
音楽は小説よりもずっと長くやっています。中学生でエレキギターを始めて、10代の頃はメタルバンドを組んでいました。宗次郎さんのオカリナと出会ったのは、大学1年生のとき。もうメタルはやめていて、一人で作曲をして、ギターを持って川べりで歌っていた頃でした。新しい音楽に触れようと思い、CDショップで見つけたんです。
宗次郎さんは1986年のNHK特集「大黄河」の音楽で脚光を浴びて、テレビドラマの挿入曲にも使われていたので、じつは誰でも聴いたことがあるかもしれません。とにかくメロディーがすばらしくて天才的なんですよね。
自分でも吹いてみたくなって、オカリナを何本か買いました。実際に触ってみてびっくりしたんですけれど、オカリナはリード楽器としてはものすごく音域がせまい。2オクターブもないんですよ。そのとき、なんだか謎が解けたような気がしました。
音域がせまいという制約があるからこそ、そのなかですごく創意工夫をして、シンプルで耳に残るメロディーを思いつくんだろうなと。制約というと、ネガティブに捉えられることが多いと思いますが、制約が上質なものを作ることもあるというのをこの体験で植え付けられました。
僕はその頃からミステリー小説が好きでしたが、ミステリーも書くうえでやってはいけないことが多い。地の文でウソをついてはいけない、他人が使ったトリックは使えない。でも、そうした制約があるからこそ新しいことを発明する余地があるとも思う。
《数あるミステリーのなかでも、名探偵の金田一耕助には特別な思い入れがある》
横溝正史の金田一耕助シリー…