岐阜の高校球界で今年最も輝いたのは、岐阜城北だろう。下克上で岐阜大会を制し、夏の甲子園では全国屈指の強豪相手に激闘を演じて高校野球ファンを沸かせた。
岐阜大会の前評判は高くなかった。優勝経験はあるが、昨秋も今春も県大会で初戦負け。だがふたを開けると優勝候補を次々と破る。「最強の挑戦者」を合言葉に甲子園切符を勝ち取った。
迎えた全国大会。組み合わせ抽選会で引いたのは開幕日の第3試合。相手は奈良代表・智弁学園だった。春夏通算36回の出場を誇り、春は優勝経験もある強敵だ。
智弁学園の主力選手は岐阜城北の印象を「初出場(実際は春夏通算5回目)らしいので勢いに気をつけないと」、首脳陣の一人も「よく知りませんが、県岐阜商に勝ったのなら強いんでしょう」といった反応。報道各社の予想も「智弁学園有利」と見る向きが多かった。
強い違和感を感じた。岐阜大会の戦いを見るに、試合ごとに強くなっている様子や勢いを感じていたからだ。春の東海大会4強の県岐阜商を死闘の末に延長で破った決勝を見て、「甲子園でも勝てる」と確信した。
決戦は8月7日夜。ナイターになった。序盤から智弁学園ペース。だが岐阜城北のエース中本陽大投手は要所を締めて得点を許さない。すると三回に長江航佑中堅手の適時打などで2点を先制。八回に河野翔夢左翼手の意表を突く本盗で突き放す。
中本投手は「打たせて取る」と決めていた。打っても打っても本塁が遠い智弁学園。選手たちの表情が徐々に固まっていくのが見て取れた。
勝利目前の九回、悪夢が待っていた。死球や安打で無死満塁となり、犠飛で1点を失う。ピンチは続き1死一、二塁。ここで次打者は力の無いセカンドゴロ。併殺で試合終了かと思われたが、一塁塁審の判定はセーフ。試合は延長に突入する。
十回に3点を奪われるがその裏に取り返す。適時打を放った富田舜士主将のガッツポーズに、甲子園は大歓声で応じた。
甲子園は奈良に近い。序盤は智弁学園への拍手や歓声が大きかった。だが試合が進むにつれ、岐阜城北への声援や拍手がどんどん増えていった。
中本投手が三者三振に抑えた六回もそうだった。3人目の打者から143キロの速球で空振り三振を奪った瞬間、「うおおお」という地鳴りのようなどよめきが沸いた。
終盤は、どちらかが打てば大歓声、その打球が好捕されればやはり大歓声という状態に。大会屈指の熱戦になった。
岐阜城北は十一回に3点を奪われ、惜敗した。智弁学園はその後、8強入り。タラレバは意味がないが、もし勝っていたら岐阜城北はどこまで勝ち進んだだろう。そんな想像をしてしまう。
チームは秋田和哉監督のもと再出発。秋の県大会で4強入りした。亀山優斗投手ら甲子園に出た2年生も残る。来夏はどんな姿を見せてくれるのか。大いに期待したい。