
石川県輪島市の輪島中学校で14日、卒業式が開かれる。88人の同級生と一緒に、孫娘の名前が呼ばれる予定だ。中学を卒業したら、金沢の高校に進学したいと夢見ていた。「じいちゃんのところから通う」と話していた。その孫は今、写真の中にいる。
石川県中部、金沢市の隣にある野々市市。輪島塗職人の喜三(きそ)誠志(さとし)さん(63)は、輪島市の自宅が昨年元日の能登半島地震で被災し、知人に紹介された一戸建て住宅に身を寄せている。台所の一角を作業スペースにし、漆の筆を走らせる。
まん丸の瞳が愛らしい、ぽっちゃりとしたフクロウ。写実的な絵を手がけてきた自分にとって、珍しいデザインだ。ピンクと水色の2羽が寄り添うポップな絵柄は、孫と一緒に考えた。
昨年の夏休み。中学3年の喜三翼音(はのん)さん(当時14)が泊まりがけで遊びに来た。
「黒目を大きくした方がかわいい」
「2羽だと親子にもカップルにも見える」
中学では美術部長。次々とアイデアが出る。
「原色はだめ。明るい色がいい」。細かい注文がうれしかった。
ほんとうに売れるかな。そうつぶやくと、「絶対に売れる! 売れ残ったら私が売ってあげる」と頼もしい答えが返ってきた。
輪島市の朝市通りにあった誠志さんの店は、地震による火災で全焼した。
昨年3月、石川県内外で「出張輪島朝市」が始まると、初回から出店した。休日には翼音さんが手伝いに来てくれた。
金沢の高校に進学したいと翼音さんは言っていた。「じいちゃんのところから通う」とも。受験勉強に集中してね、と伝え、8月以降は出張朝市の手伝いを断った。
カップを売り出した、9月21日
9月21日、出張朝市は富山市で開かれた。試作を重ね、完成したフクロウのカップを初めて店頭に並べた。
店を開いて1時間で、10個が売れた。
翼音さんの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
その時、スマホが鳴った。輪…