週末に射撃場で練習する人たち。ロシアのウクライナ侵攻以降、利用者が増えているという=5月26日、ヘルシンキ郊外、牛尾梓撮影

■朴沙羅さんの「欧州季評」

 私がフィンランドに来て驚いたことの一つに、戦争に関する記憶や評価がある。フィンランドは1939年から40年にかけての冬戦争と、41年から44年9月まで行われた継続戦争の、2度にわたってソ連と戦争した。冬戦争はソ連がフィンランドへ侵略して始まり、継続戦争はフィンランドがナチス・ドイツとの軍事協力のもと、防衛戦争という口実でソ連に進撃して始まった。フィンランドは両方の戦争でソ連軍に追われ、停戦交渉の結果として領土を失い、継続戦争のあとは賠償金を課された。この二つの戦争が、日本でいうところの「あの戦争」に当たる。

 歴史学者や法学者たちは、継続戦争の開戦にあたってフィンランドに明確な侵略と領土拡張の意思があったことや、継続戦争時にフィンランドが併合した東部カレリア地方で現地の捕虜やロシア人に対して虐待があったことを明らかにしている。ヘルシンキ大学で国際法を教えていたラウリ・ハンニカイネンは、継続戦争時の大統領リスト・リュティや軍事指導者カール・グスタフ・マンネルヘイムについて「ドイツに強く依存するあまり、フィンランドの指導者たちは、英国、米国、スウェーデンの警告に耳を傾けることなく、いくつかの非常に疑問の残る決断を下した」と評価する。

 しかしフィンランドにある博物館の展示や教科書などの公的な歴史叙述では、冬戦争と継続戦争はナチス・ドイツとソビエト・ロシアとの間で、自国の独立と民主主義体制を維持した偉業として語られることが多い。両戦争を指揮したマンネルヘイムは、のちにフィンランドの大統領になった。今でもフィンランド国籍を持つ男性は、18歳から30歳までの間に、おおよそ半年から1年の兵役に就かなければならない。兵役を終えた後は予備役に就き、再訓練に加わる義務がある。ロシアがウクライナに侵略して以降、女性の徴兵も議論され、予備役兵の団体が行う訓練には多くの人が参加している。

 過去に起こったことの中から…

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