いじめに関する題材を充実させた道徳の教科書=2023年

NPO法人副代表・須永祐慈さん寄稿

 新学期を迎えて、大型連休明けに保護者が気になることの一つに子どもの不調や「行きしぶり」があるように思います。その中でも特に心配なのが、「いじめられているのではないか?」ということではないでしょうか。

 以前から「いじめが深刻化するのは2学期」という言説があり、その指摘と現場感覚から、2学期にいじめ対策の強化キャンペーンやいじめ予防授業などを行っている学校も少なくありません。

 ただ私は、その見方は少々狭いように感じています。なぜなら、2019年に大津市が公表した、市内の小中学生に行ったアンケートからは、いじめが「1学期(5月)」から増加した傾向が見られるからです。特に小学生は、10月のピークと同じ割合でいじめが発生していますし、中学生も5月に増加がみられます。

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大津市の「いじめについてのアンケート調査報告」(2020年3月)で、いじめに該当する項目を「特に強くされた時期」を尋ねた結果=同報告書より

 これは、子どもの相談窓口である「チャイルドライン」のデータも似た傾向を示していました。主訴としての「いじめ」が多い月は、大津市の結果と似て、5月・6月や10月などに多いのです。

「いじめはどの学校でも1学期から起こっている可能性がある」。そのことをまずは踏まえる必要があります。

 文部科学省によると、学校における深刻ないじめである「いじめ重大事態」は、最新の報告で923件と過去最高でした。

 「いじめ重大事態」の基準は、いじめ防止対策推進法(いじめ防止法)で二つ定められています。一つ目は 「生命心身財産重大事態」で、「生命、心身または財産に重大な被害が生じた疑いがあると認める」とあります。「不登校重大事態」は「相当期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認める」事態です。いじめが起こった時、どの「重大事態」に該当するかは、基本的には学校の設置者(教育委員会など)か学校の判断となります。また、子ども本人や保護者から「いじめにより重大被害があった」と申し立てた場合にも、重大事態として対応することとなっています。

 この法律は13年に施行されて10年以上が経ちました。この間、対策が進んだ面もあれば、そうでもない現状もある、というのが私の見立てです。課題は多く残されていて、新たな問題が表面化・複雑化している部分もあるように思います。

 それは例えば、現場への法律の浸透不足や組織体制の弱さ、第三者委員会の設置における人選基準、委員会の調査方針のあり方、報告書の情報公開に関する課題、その後の取り組みへの検証などが挙げられます。

 特に調査委員会では、意思疎通や共有、決定などに関する場面で議論に時間がかかり作業が停滞し、予定よりも時間とエネルギーがかかっている事例も聞かれます。これらの論点の再整理をしながら、一つひとつクリアしていく作業が求められています。いじめ対策は、まだ課題が山積しています。

子ども目線で見た「重大事態」という言葉

 では「当事者である子ども」の目線で「現状のいじめ対策」を見ると、何が浮かんでくるでしょうか。以下に、私自身が子ども時代に受けたいじめや不登校の経験も交えつつ挙げてみます。

 最初に挙げたいのは、「重大事態」という言葉自体が、とても重い意味合いであるがゆえに、子どもが戸惑いや不安を感じていないだろうか、という点です。

 例えば、継続したいじめを受け追い込まれ「もうだめだ」と絶望的になり、学校を休みがちになる事態が生じたとしましょう。そんな時に、親や学校から「これは重大事態だから、学校を挙げて調査する」と言われれば、対処してくれるのではと感じる一方で、「自分は大変な事態を引き起こし、多くの大人に迷惑をかけているのではないか」と戸惑いや不安を持つ可能性があるのではないでしょうか。

 そもそも「重大事態」は、法…

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