白壁の土蔵が並ぶ、風情のある街並みの一角に歴史のある写真館がある。ショーウィンドーに飾られたハンサムな男性の写真。「誰かわかりますか?」とある。誰なのだろうか。

 鳥取県倉吉市の市街地にある「ミタ写真館」。先々代の見田謙太郎さんが戦前に始めた店だ。現在は孫にあたる昂子(あきこ)さんが後を継いでいる。

 戦後まもなくのこと、ミタ写真館に、近所に住み、農協に勤める「佐藤」というカメラ好きの青年が出入りしていた。

 「佐藤」の二枚目ぶりに注目した謙太郎さんは思わぬ行動に出る。進駐軍兵士から借りたジャンパーを着た「佐藤」の写真を、彼の知らないうちに新人俳優を募集していた映画会社の松竹に送ったのだ。1950年のころだ。

 折しも、「佐藤」は新たな職を得るために知人を頼りに上京していた。松竹のプロデューサーは銀座を歩いていて、写真の「佐藤」に偶然、出会い、声をかける。

 大船撮影所(神奈川県鎌倉市…

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