ロシア・サンクトペテルブルクで撮影した8歳ごろのキリーロバ・ナージャさん=本人提供

 とっても人見知りな上、親の事情で小学校は5カ国を転々、教室で誰とも話さない時間が長かった。そんな少女が広告大手「電通」に入社し、2015年にはコピーライターの世界ランキング1位に輝き、いまは絵本作家としても活躍する。不得手を逆手に取る発想力や、日本の教育の強みと課題について、キリーロバ・ナージャさんに聞いた。

語学の習得は「花粉症モデル」?

 ――コピーライターとして華々しい実績があります。言葉は好きですか?

 言葉にはいまだ苦手意識があります。私は旧ソ連で生まれ、ロシア、日本、イギリス、フランス、アメリカで小学校に通い、カナダの中学校に行きました。毎年、言葉が変わるので、学校にいる時間の半分は、あまり言葉が分かっていなかった。両親は学者なのですが、言葉が分からなくても現地の学校へ通わせる方針でした。勉強は家でも教えられるけれど、異なる文化や考え方を持つ同世代の子どもに触れるには現地の学校に行くことが良いと思っていたそうです。日本でみんなと同等に漢字が分かるようになったのは高校時代でした。

 ――言葉が分からないと、つらかったでしょうね

 私はすごく人見知りなので、話せないだけでなく、話したいという欲求がさほどないので、良かった。ずっと周りを観察していましたね。人が話しているのをひたすら聞いて、何を言っているか勝手に想像していると、ある日「あっ、分かる」となるんです。花粉を浴び続けていると、いつか発症するみたいに。私は語学習得の「花粉症モデル」って言っています。でも、やっと言葉が分かるようになると、また転校で振り出しに。その繰り返しでした。

 ――周囲を観察して、自分を周りに合わせようとしていたのですか?

 はじめは抵抗していました。最初に京都に来た時は、日本の小学2年に上がる直前だったのに、弟と一緒の保育園に行くことに。小学生なのにお昼寝させられるし、給食も見たことのない食べ物ばかりで食べられなかった。言葉が分からないから「嫌だ」と伝えることもできず、よく脱走していたみたいです。でも、魚やお米もおなかがすくのでおそるおそる食べてみると、意外とおいしかった。抵抗するだけでは何も解決せず、少し歩み寄ってみるという経験を重ねていきました。

 私は常に「異分子」でしたが、子どもの時ってみんなと同じが良いとされがちなので、できるだけ「普通」を極めようとした時期もありましたね。

「外れ値」なりの受験勉強

 ――周りと同じようになって安心しましたか?

 「普通」を極めたところで、「意外と普通だね」って、マイナスがゼロになるだけなんですよ。国語でみんなに追いついたところで、ものすごい努力の割には「人並み」になるだけでプラスにはならない。私が生き残るために必要なのは、やっぱり「違い」なのかなと気づいたんです。それは「普通」を極めた結果でもあるのですが。

 ――「普通」になっても意味がなかった?

 受験勉強もそう。中学3年の2学期にカナダから日本に戻った時、先生に真顔で「高校に入れない」って言われたんです。カナダで成績は良かったので「どういうこと? 何を言ってるの?」と。カナダでは高校受験なんてないから。塾を探しても断られ続けました。そんな時に、ある塾の先生が統計学の「外れ値」という言葉を教えてくれたんです。他の数字から大きく外れる値で、グラフに表示されないけれど、確実に存在はする。「外れ値なりの勉強のやり方を考えよう。君が成功すれば、他の外れ値たちもグラフに載るようになるから、一緒にがんばろう」。そんなことを言ってくれました。

 ――外れ値なりの受験勉強とは?

インタビューの後半では、日本の学校の強みと課題や、世界で称賛されたホンダのプロジェクトについても語ってくれました。

 英語は大丈夫なので、国語は…

共有
Exit mobile version