3月に米国で開かれる核兵器禁止条約の第3回締約国会議へのオブザーバー参加について、日本政府が見送る方向で調整していることが明らかになった。被爆地・広島では、「被爆国として恥ずかしい」などと嘆く声が上がっている。
26日に広島市中区の平和記念資料館であった日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のノーベル平和賞受賞記念イベント。日本被団協代表委員で県被団協の箕牧智之理事長(82)は「(日本と同じく核の傘の下にある)ドイツやオーストラリア、ノルウェーがオブザーバー参加しているのに、日本が行けないという確固たる理由があるのか疑問だ」と話した。
もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(80)は「日本政府は被爆国としての自覚がないのだと思う」と批判。「日本被団協のノーベル平和賞は国際的にも知られている」と続け、オブザーバー参加しないことについて、「日本政府の怠慢だと思う」と述べた。
高校生平和大使としてノルウェー・オスロでの授賞式に列席した市立基町高校2年の甲斐なつきさん(17)は「ノーベル平和賞の受賞で期待もあったので、すごくつらい」と心情を吐露。それでも、「つらいという思いで終わらせるのではなく、私たち若者が、日本政府が核兵器廃絶に近づいていくように後押しする存在として、がんばっていきたい」と決意を新たにしていた。
3月の締約国会議に合わせ渡米する「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)の田中美穂さん(30)は「日本政府は本当に核兵器をなくす気があるのか、恥ずかしい態度だと思っている。見送りを既定路線にさせてはいけない。まだ国会審議がある。そこで議論してほしいということを、私たち市民が伝えていくことが大事」と述べた。
元広島市長の平岡敬さん(97)は25日に報道陣の取材に応じ、「日本被団協がノーベル平和賞を受賞し、広島、長崎の両市長が石破首相に参加の要請をするなどいいムードができていたのに、アメリカに忖度したのか、参加しない方向になった。絶好のチャンスを逃したと思う」と話した。
核保有国・非核保有国との橋渡し、今こそ 広島総局・興野優平
先月、ノルウェー・オスロでノーベル平和賞の授賞式を取材した。ノーベル委員会のフリドネス委員長は「被爆者たちの遺産を受け継いでいくのは私たちすべての人間の責任」とスピーチし、「より多くの国家が核兵器禁止条約を批准しなければならない」と語った。
条約には94の国・地域が署名したが、米国など核保有国や、その「核の傘」に守られる日本やノルウェーは不参加だ。だが、ストーレ首相は日本被団協との面会で、条約がめざす目的の「強い支持者」だと述べた。同国は実際に締約国会議にオブザーバー参加している。
米大統領に返り咲いたトランプ氏がロシア、中国との核軍縮協議に意欲を示したという。真意は不明だが、今こそ日本もオブザーバー参加によって核兵器廃絶への意思を示し、核保有国と非核保有国との橋渡し役を務められないか。議論を尽くしてほしい。