新卒採用の合同会社説明会=東京都新宿区、渡辺淳基撮影

「石の上にも三年」は今②

 退職代行サービスの活況が話題になるなど、今年も「すぐに辞める若者たち」が注目されました。なぜ会社を辞めるのか? その背景のひとつに「自分らしさ」へのこだわりがあると、組織開発が専門の勅使川原真衣さん(42)は指摘します。若者が活躍できる組織に、必要なことについて聞きました。

どんな仕事も3年続ければ道が開け、成功にもつながる――。日本で長く流布してきた「石の上にも三年」、社会や働き方が変わる中でどう考えてゆけばいいのでしょうか。インタビューシリーズでお届けします。

 ――若者が会社を辞める。その背景にあるものとは?

 厚生労働省が発表する新卒の3年以内の離職数は、近年約3割で横ばいです。量的変化はないものの、辞める理由の「質」は変化しているとされています。この質の変化について、一説には職場への「不満」型退職から「不安」型退職に変わった、などとも言われていますが、私としては、ことば遊びの域を抜けて、職場における若い人の活躍にフォーカスして考えたいと思います。

 思い出すのが、「自分らしくこのプロジェクトで働けないから辞めたい」「自分らしくいられないから辞める」……といった若者からの吐露です。

 私が営む組織開発会社のクライアントや古巣の人事コンサルの先輩とも、「こう言って辞める若者が多いよね」、としばしば話をします。

 昭和生まれの私からすると、にわかに理解しにくいのですが、今の若者の「自分らしさ」へのこだわりは、並々ならぬものを感じるのです。とはいえ、それはある意味では自然なことだと思っています。

「好きを仕事に」あふれるメッセージ

 ――「自然なこと」と言うのは?

 「好きを仕事に」といった言葉が跋扈(ばっこ)していますから。これは、リクルートグループが2015年に打ち出したビジョンですが、他にも「自分を生きる」といったコンセプトはあまた流布されています。これまでの「競争」がいけなかったんだ、これからは「脱成長」「自分らしさ」だよ、とそれが「正解」かのうような分かりやすいメッセージを発信すると、売れる。売れるコンセプトを考えたもの勝ち、の勢力が大きくなり、言論はもはや商業化したとも言えます。

 その流れとも相まって、「自分らしく」のメッセージはあふれ、素直な若者たちが感化されてきた側面は否めません。

 彼らは若さ故に「それは売るためのコンセプトだ」と見抜くことが難しい。さらに、Z世代の親たちは自分たちが強いられてきた競争をイヤだと感じてきているので、家庭でも多くの人たちが「あなたらしく」の要素で子育てをしてきたかと推察します。

 これを若い人が内面化しないほうが不自然でしょう。

 逆に40代の私にとって、なじみがあるのは「出来が悪い(能力が足りない)から辞めたい」といった発想。いわゆる「能力主義」の内面化であり、「すごい」かどうかで人生を決めてきたと言えます。つまり、人から分かりやすく、良い学校、良い仕事、良い人生が「勝ち」なのだと、他人軸や他者評価で人生の選択を迫られてきたところがあります。

 でも若い人たちは、先の退職理由の例からも他人軸で生きる事の虚しさを知ってか知らずか、自分の納得感や自分が信じる「自分らしさ」を大切にしていると受け取れる。なので、これが由々しき事態なのかどうかは、一考の余地があるでしょう。

 ――「自分らしく」いられないとなると、辞めても仕方ない?

 合理的な判断だ、とは思います。ただし、老婆心ながら、自分軸ならいいよね!と諸手を挙げて喜ぶには早いと考えます。

 というのも、ともすると「自分らしさ」を重視する言説すら、それだけが一元的に「正しい」と思ってしまうと、先の「能力」という名の他人軸を信奉する話と実は大差なくなってしまうからです。

 若い人が自分軸で仕事を選びたいがために、離職が相次いでしまうのだと仮にしたときに、合理的だと思う反面、「自分らしく」働かないとダメ、という風に自分軸が呪縛になっていないか? そういう内省は必要だと思います。若い人に限らずですが。

 ――企業は何ができるでしょうか?

 私は「若者の問題」とされることは、私たち先人の問題だと思っています。若者は極めて合理的ですよ。私たち昭和世代をよく観察している。

 だからこそ、若者が信じるものをまず受け止めた上で、納得感を得られるように、試せるようにしてあげることが必要ではないでしょうか。人生や仕事の選択肢は増えているのですから、やってみて、うまくいかなくて、「やっぱりこれか」になることは避けられない。売り手市場なら、なおさらです。

 問題は、若者の揺らぎではなく、その揺らぎを許容しない上の世代の問題だとも言えないでしょうか?

 何かと買う前に試せて、生の声(レビュー)が聴ける社会にあって、仕事だけお試しが許されず、高度な予見を求められては、若者からしたら、辞めることを選ばざるを得ないかもしれません。

 組織は、ゆらぎを包摂した仕組みづくりが必要です。

 もう少し詳しく言うと、ひとつの選択肢で、社員の人生の方向を固定しないような仕組みです。

出戻り制度、サバティカル、副業……

 具体的には、一度退職した人…

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