写真・図版
祖母が便箋(びんせん)に書き残していた「絶対ないしょ」の文字=りゅうさん提供

 小学生のころから野球に打ち込んできた、りゅうさん(27)。

 中学時代はシニアチームに所属し、高校は大阪の強豪校に進んだ。

 親元を離れ、寮での生活が始まってまもなくして、祖母から手紙が届いた。

 「りゅうくん、元気ですか?」

 そんな言葉から始まる文章は、書き直しで所々黒くなっていた。

 大阪に行くことをきちんと伝えていなかったので、母から聞いて驚いたそうだ。

 「野球がんばって」と応援の言葉を記した後、最後はこう締めくくられていた。

 「お金送ります。これで好きなもの食べてください。ぜったい内緒やで」

 封筒の中には、千円札が3枚入っていた。

 「寮生活だからお金を使うことなんてないのに……」と思いながら、大事にしまっておいた。

口癖は「内緒やで」

 「内緒やで」は祖母の口癖だった。

 幼いころ、同居していた祖父母と一緒に、よく散歩に出かけた。

 花の名前や、おいしい食べ物の見分け方、山や海での過ごし方などを教わった。

 帰りに駄菓子屋に寄って、「妹たちには内緒やで」とお菓子を買ってくれた祖母。

 大好きだったのに、思春期になって話すことがほとんどなくなっていた。

 手紙に返事を書かずにいたら、2~3カ月に1回のペースで送られてくるように。

 祖父母のなれ初めや、よく行った駄菓子屋がなくなったことなどが、つづられていた。

 「忙しいだろうし、年末には帰るから、もう書かなくていいよ」

 そう返信したこともあったが、手紙は定期的に送られてきた。

 ほぼ毎回「内緒やで」と現金が同封されていたものの、千円札1枚だけの時や「今回は送れません」という時もあった。

同封されていた2万円

 大学2年生の時に届いた手紙に、こう書かれていた。

 「最近、文字がうまく書けま…

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