長野の祖父母から届いた梨=2024年9月17日午後9時42分、神戸市中央区、宮坂奈津撮影

 一人暮らしの部屋に、今年も段ボールがひと箱届いた。地元長野で祖父母が育てた梨だ。

 早速、一つむいて食べた。二十世紀という品種で、みずみずしく甘さと酸っぱさが絶妙なバランス。いくらでも食べられる。この梨をあてにし、スーパーで買うのは我慢していた。9月中旬、神戸はまだまだ暑いが、私の中では「秋」到来だ。

 おいしい梨が食卓に届くまでに、あらがいがたい自然の脅威と闘う生産者の姿があると実感したことがあった。

 「最強クラス」と言われる台風10号が兵庫県に接近した8月末、対策を急ぐ神戸市内の果樹園を取材した。園は道の駅に併設されており、梨やリンゴ、ブドウなどを約4ヘクタールの敷地で育てている。普段は、果物狩りが営業の柱。強風に飛ばされないよう早めに収穫して売りに出したい一方、それだと台風が過ぎた後にお客さんがとる分が減り、売り上げに影響する。「痛しかゆしだ」と園の従業員はため息をついた。

 悩みの種は台風だけではない。今年は例年以上の猛暑となり、果物狩りの客足はそもそも鈍かったという。猛暑の影響も受けたと言われる台風は幸い、神戸市内には大きな被害を出さなかった。だが、「もはや神頼みだ」と言いつつ台風一過を待つ従業員のみなさんの姿に、気候変動が着実に生活を脅かしていると感じた。

 年齢が若いほど、気候変動の問題は深刻だ。今でさえ夏の盛りの日中は外に出るのもおっくうなのに、さらに気温が上がると言われると、年をとって体力が落ちたあとの生活が気がかりだ。

 8月には10~20代の16人が、電力会社など10社を相手に二酸化炭素の排出削減を求める訴訟を名古屋地裁に起こした。気候変動を人権問題ととらえ、長くその影響を受ける世代に配慮した司法判断がなされるかどうか、注目している。

 「あんまりいい出来じゃないんだけど」。81歳の祖父にお礼の電話をすると、そう返ってきた。秋の訪れを知らせてくれる祖父の梨をいつまで楽しめるだろうか。年々長くなっているような残暑を、できるだけ長くこの梨で乗り越えさせてもらいたい。(神戸総局・宮坂奈津、2022年入社、事件担当)

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 地方で記者生活をスタートさせた入社1~4年目の若手たちのコラムをお届けします。ときどき「番外編」も掲載します。

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