青森県住宅供給公社の職員千田郁司(ちだゆうじ)が、公社の14億円超を横領し、その大半をチリ人妻アニータ・アルバラードに送っていた「アニータ事件」。23年前に事件が発覚する前、千田が行きつけにしていた飲食店が、チリの首都・サンティアゴの旧市街地にある。

  • 【前回はこちら】アニータさんに渡った億単位の金はどこへ チリで資産状況を調べると
今年に入って撮影されたアニータの写真

 創業40年以上のすしレストラン「ハポン(日本)」。

 店の経営者で、調理場を取り仕切る布施一彦(62)は、当時の千田の羽振りの良さを強烈に覚えている。

 「ポケットに札束を入れ、店員に高額のチップを配っていた。ギラギラしていて、えたいが知れねえ。あっちのスジの人かと思っていた」

 店が終わった後、千田とカラオケバーに行ったこともあったという。

 「千田さんとアニータがデュエットしていたこともあった。千田さんは歌がうまかった」

取材中に千田が口ずさんだ歌

 それから四半世紀。

 横領の罪で懲役14年の刑期を終えた千田は、現在67歳。頭髪はすっかり白くなり、事故物件のアパートに暮らしながら職を探す日々を送る。

 事件の後、千田とアニータが会ったことはない。両者のやり取りは途絶えたまま、いまも婚姻関係は続いている。

レストラン「ハポン(日本)」を経営する布施一彦。チリ滞在中に店に来ていた千田について「当時はギラギラした感じだった」と振り返った=2024年7月、サンティアゴ市内、坂本泰紀撮影

青森県住宅供給公社の巨額横領事件とは

23年前に発覚した青森県住宅供給公社を舞台にした14億円超の巨額横領事件。当時、青森支局員だった記者が、刑期を終えた元公社職員に50時間を超えるインタビューを行いました。彼が語った事件とは。連載最終回のこの記事の後半では、金を受け取ったとされるチリ人妻のメッセージも紹介します。記事中の敬称は省略します。

 出所後はカラオケのマイクを握ったことがない千田だが、昨年、記者が取材中、お気に入りだという曲を口ずさんだ。

 「なくした夢は~碧(あお)い海の色~♪」

 安全地帯の「碧い瞳のエリス」(作曲・玉置浩二、作詞・松井五郎)だ。

 森鷗外の小説「舞姫」に、エリスという女性が出てくるが、このバラードも、「舞姫」の世界観を表しているとの説がある。

 鷗外自身がモデルとされるエリート官僚が、ドイツ留学中に踊り子のエリスと恋に落ちる。彼女は妊娠するが、恋人が自分を捨てて帰国することを知って発狂する――。

 「舞姫」はそんな悲しい物語だ。

記事後半で、アニータさんから記者への音声メッセージを動画で紹介します。

ここから続き

 「なぜこの曲が好きなのか?…

共有
Exit mobile version