イラスト・ふくいのりこ

 人は自分が誇りに思うことなら他人に打ち明けやすいものですが、自分が恥ずかしいと思うことをあえて開示するには大きな勇気が必要です。今回紹介するのは、認知症の初期段階にあった女性の決意です。いつものように個人情報保護のために事実の一部を変更し、仮名で紹介します。

 篠原和子さんは1993年、私が認知症を主に診るメンタルクリニックを開設した直後にこられました。当時76歳。夫を見送って6年目、2人の娘は福島と広島に嫁ぎ、ひとり暮らしをしていました。

 受診の理由は「記憶が保てないことや計算がうまくできないことを悩み、受けられる治療があれば通院したい」というものでした。

 当時は現在のようにMRIの検査ができるところは少なかったため、CTによる画像診断と諸検査によって認知症かどうかを診断しました。

 彼女のようにひとり暮らしで家族が遠くに住んでいる場合、私は当時から本人に「結果を自分で知りたいですか、それとも電話で家族に伝えましょうか」と聞いてから告知するようにしていました。

 篠原さんは「自分の病気のことは自分で知りたい」と真っ先に答えたため、検査結果としてアルツハイマー型認知症が始まっていること、この先、より悪くならないように他人との交流を続けることが大切であること、そして彼女には糖尿病があり、いつも血糖値が150程度(100程度に保ちたい)、HbA1cの平均値は7.8(6.0程度にしたい)と高めであるため、今後認知症の悪化を抑制するには血糖値のコントロールが大切であることを伝えました。

買い物が恐怖の時間

 すると彼女は「先生、私はひ…

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