それぞれの最終楽章 最愛の妻の死(2)
漫画原作者 城アラキさん
2010年1月下旬に突然、膵臓がん末期で余命3カ月と宣告された淳子さんは、東京・南青山の自宅をなるべく早く離れ、信州の別荘で過ごしたいと言った。
僕は、新宿の大学病院から長野県諏訪市の総合病院への転院手続きなど、淳子さんが自ら手帳にびっしりと書き込んだリストに従って動いた。淳子さん名義の銀行口座の解約と預金の移動、原宿のマンションを見に行くこと……。「だって、この家に1人で戻ってくるの、嫌でしょ。気に入ったら、すぐにここを売って引っ越せばいいから」と淳子さんは言った。
- 「それぞれの最終楽章」一覧はこちら
もともと僕の個人事務所の経理一切は淳子さんがやっていて、僕は家にいくら金があるかも、月々のローンの支払い額も知らなかった。だからリストには毎年必要な各種の支払いから、2匹いる犬の散歩時の注意、さらに僕が飼い切れなくなった時のためにブリーダーの連絡先まで書かれていた。
淳子さんは自分の存在が僕の…