漫画・田房永子

 「破れないストッキング」は「陰謀論」なのか――。昨年末、X(旧ツイッター)上で物議を醸したこの議論は、靴下メーカーの謝罪を経て、新たにストッキング開発に乗り出したアパレル会社社長への攻撃へと発展した。服飾史家の中野香織さんに、一連の「炎上」の問題点と背景を分析してもらった。

「正しい」広報の姿勢とは

 靴下屋の発信は、SNS的「ウケ」を狙ったのかもしれませんが、企業広報としては望ましくない対応ですね。「都市伝説」「指飛ぶで」といった表現には、ジョークのセンスは感じられず、消費者を軽視するように受け取られかねません。企業の公式発言は、真剣な要望や疑問に対して誠実に対応する姿勢を示すのが大前提なのに、軽率な表現を使ったことで反感を買ってしまいました。

「靴下屋」の投稿をめぐる議論

昨年12月、X(旧ツイッター)で「今の技術なら破れないストッキングを作れるが、メーカーが商品を売るために穴の空きやすい生地を使っている」という趣旨のポストが話題になり、靴下専門店「靴下屋」を展開するタビオ社の公式アカウントが「『破れないストッキング』は都市伝説、陰謀論の領域」「そんな繊維でストッキングとか靴下作ったら、指飛ぶで」などと反論。「上から目線」「女性ユーザーの意見を軽視したマンスプレイニングだ」と批判を浴び、タビオ社は「不適切な表現」があったとして「ご不快な思いをさせてしまいましたこと、深くお詫(わ)び申し上げます」と謝罪した。

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 一方、技術的な観点では、全く破れないストッキングを実現するのが極めて困難であるのは確かです。美しく薄い質感を保ちながら、伸縮性と強度を高水準で両立させるのは容易ではありません。「破れない」に近いストッキング自体は、軍事・防護用レベルの特殊な高強度繊維を使えば作ることは可能でしょうが、コストや着心地、通気性といった実用面が大幅に犠牲になります。消費者の多くが求める価格帯とファッション性を保ったまま大量に流通させるにはハードルが高すぎ、市場として成立しにくいのが実情です。

 それでも、消費者の多くがス…

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