好中球が生み出す活性酸素種から逃れるため、転移に踏み出すがん細胞のイメージ図=高橋重成・京大准教授提供

 日本人の死因トップのがん。治療でとりわけやっかいなのが、がんが最初にできたところからほかの臓器・組織に移る「転移」だが、実はなぜ転移するかはよくわかっていない。京都大や名古屋大の研究チームは、がん組織内には、活性酸素種の一つ、過酸化水素が高濃度に蓄積する「ホットスポット」が存在し、そこから逃げるようにがん細胞の一部が分離、放出されることで転移が始まるとマウス実験で突き止めた。

 研究成果が英科学誌ネイチャー・セル・バイオロジーに掲載された。

 ヒトを含む多くの生物は酸素を利用してエネルギーを獲得するが、と同時に活性酸素種が生体内にできる。活性酸素種が蓄積すると酸化ストレスが生じて細胞を傷つけるため、多くの細胞にとって毒ともいえる存在だ。がん組織は代謝異常などによって活性酸素種が特に蓄積しやすく、とりわけ強い酸化ストレスにさらされているとされる。

 研究チームは、1個の細胞レベルで外部の活性酸素種を直接的に検出する手法を開発。ヒトのがん細胞を移植したマウスで、がん組織の内部を観察したところ、過酸化水素の分布は不均一で、濃度が局所的に高いホットスポットが存在。その部分にさらされたがん細胞ではがん組織から分離、放出されることが活発に起きていた。関連する遺伝子の働きからも確認された。

 さらに詳しく調べると、免疫細胞の一種である好中球がこのホットスポット周辺で集まっていることも観察された。好中球をがん組織から取り除くと過酸化水素のホットスポットがつくられにくくなった。

 これらのことから、がん組織に集まった好中球が過酸化水素をつくってホットスポットを形成し、それにさらされたがん細胞が有害な過酸化水素から逃げるように分離、放出されることで転移が始まると考えられるという。

 がんの中には活性酸素種の働…

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