チリのチャナントール山(5640メートル)に完成した東京大アタカマ天文台(TAO)の山頂施設。右側の建物に大型赤外線望遠鏡が設置された。「標高世界一の天文台」としてギネス世界記録に認定されている=東京大TAOプロジェクト提供

 南米チリの5千メートルを超える高地に大型赤外線望遠鏡「東京大アタカマ天文台」(TAO)が完成した。計画のスタートから四半世紀、「標高世界一の天文台」の建設は苦難の道のりだった。いよいよ始まる観測で、どんな宇宙の謎が解き明かされるのか――。

 アタカマ砂漠の乾燥した大地にそびえるチャナントール山。TAOの観測施設が完成したのは、その山頂(標高5640メートル)だ。4月末、首都サンティアゴであった完成式典には、東京大や文部科学省の幹部のほか、チリ政府の関係者ら200人ほどが出席した。

 「チリの高地に設置された世界トップクラスの赤外線望遠鏡は、宇宙の探査と生命の起源の探求に向け、画期的な成果をもたらすことだろう」。チリ外務省のフリオ・ブラボ・ユビニ局長は、そうあいさつした。

 TAO計画が始まったのは1998年。見渡す限りの荒野で、まずは山頂につながる仮設道路づくりから始めた。

 酸素は平地の半分ほどしかない。「高山病を防ぐため、全員が酸素ボンベを背負って工事を進めた」。東京大アタカマ観測所長の宮田隆志教授(赤外線天文学)は、そう振り返る。

 冬になると寒く、積もった雪がなかなか溶けない。過酷な環境のなか、日本人120人を含む350人で難工事を進めた。2009年には口径1メートルの小型望遠鏡を設置し、「標高世界一の天文台」としてギネス世界記録に認定された。

 「その後も、チリ国内の暴動やコロナ禍など苦難の連続だった」と宮田さん。観測運用棟や口径6.5メートルの大型望遠鏡を収める施設が完成し、日本から運び込んだ大型望遠鏡を据え付けた。

 なぜ、地球の裏側に天文台をつくったのか。

 日本の赤外線観測施設として…

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