会見する原告の小島喜久夫さん(左から2人目)=2024年7月3日午後5時10分、東京都千代田区、西岡臣撮影
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 一連の訴訟が問い続けたのは、強制不妊手術という深刻な人権侵害に、この国がどう向き合うかだった。司法は「時の壁」に穴を開け、救済の道をつないだ。「違憲」を突きつけられた国は、どう責任を果たすのか。高齢の被害者らには一刻の猶予もない。

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 戦後の長きにわたり、社会を挙げて公然と続けられた人権侵害を前にしても、「20年」を理由に被害者を救済しないのか――。最高裁が向き合ったのは、35年前に自身が下した判断との整合性だった。

 訴訟の最大の争点は、不法行為から20年で賠償請求権が絶対的に消滅する除斥(じょせき)期間という「時の壁」だった。

 この区切りには、法的な紛争がいつまでも続かないよう権利関係を確定させる狙いがある。ただ、最高裁は1989年、20年が経てば加害者側にどんな悪質な事情があっても「被害者側には反論の余地は一切ない」との極めて硬直的な法解釈を示した。

 この判例には強い批判もあったが、裁判所はこの考えを厳格に扱い、公害訴訟など提訴までに時間がかかる被害で救済の壁になってきた。

背向ける国の姿勢、裁判所の考え変える

 だが、旧優生保護法(旧法)によるあまりに重い人権侵害と、それに背を向け続けた国の姿勢が、裁判所の考えを変えた。

 2018年以降に起こされた一連の訴訟では当初、除斥期間を理由に原告の敗訴が続いた。だが、22年に大阪、東京の両高裁が相次いで、今回の事案で国を免責するのは「著しく正義・公平に反する」と判断。その後は各地で同様の判断が続いた。

 この日の大法廷判決も、旧法を「意に反して生殖能力を奪う手術を課した」「合理的な根拠なく障害者らを差別的に扱った」などと批判。「立法時点ですでに違憲」と初めて明示し、法をつくった国会の責任もあると断じた。

 国については、約48年間も手術を強いる政策を続けた上、96年の同法廃止の際に「速やかに補償措置を講ずることが強く期待される状況だった」と厳しい目を向けた。

 大法廷が審理した5件の訴訟のうち4件は、高裁段階でも原告が勝訴した。ただ、いずれも89年の最高裁判例を前提に、除斥期間適用を一定程度制限することなどで救済を図っており、救済範囲は限定的になる懸念もあった。

 だが大法廷は、判例自体を変更し、今回のような事例で「国が除斥期間を理由に請求権消滅を主張すること自体が権利乱用だ」と指摘。一連の訴訟の原告だけでなく、今後新たに被害を訴え出た被害者も広く救済される道を開いた。

 今後の焦点は、国の対応に移る。三浦守裁判官は個別意見で「被害者の多くが高齢であり、国による全面解決が早期に実現することを期待する」と付言した。(遠藤隆史)

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