介護業界の人手不足が深刻化するなか、海外での人材確保に地方の自治体が力を入れている。ただ、就労から短期間で職場を移ることができる法改正が国会で審議中で、外国人材に頼る施設からは都市に働き手を奪われないかと不安の声が上がる。そんななか、福井県は技能実習生として福井で働くためのプログラムを東南アジアで開設し、注目を集めている。
「お茶、飲みますか」
同県大野市の特別養護老人ホーム「大野和光園」のリビングで、タイ人技能実習生のロージャナグン・ナッチャー(通称・ナーツ)さん(20)とサートシー・ラッカナー(同シノメ)さん(22)が入所者の女性に声をかけていた。寄り添い、口元にカップを運ぶ。
同園の清水啓司・常任理事は「2人は明るく積極的に取り組んでくれ、利用者から喜ばれている。地元の高校に福祉コースはあるが、人材確保に苦労するなかでなくてはならない存在」という。秋にはさらに2人のタイ人実習生を受け入れる予定だ。
ナッチャーさんは「大変なこともあるが、楽しいことの方が多い。まだ方言がほとんど分からないが、周りの職員さんが説明してくれる」。ラッカナーさんは「人としゃべるのが好きな私にとって、楽しい仕事。大野は静かな町でとても安心」と話す。
福井で就労、道筋つけたプログラム
2人は昨年6月に来日し、給料の一部を家族に仕送りしているという。就労の道筋をつけたのが、県が2021年度にタイ西部カンチャナブリの高校で始めた教育プログラムだ。現地の財団の仲立ちで、日本語講師と介護福祉士を派遣している。技能実習生の要件となる日本語能力試験のレベルに達するよう補習も開く。
受講費は県が、渡航費は技能実習生として受け入れる施設が出す。県によると、若者の働き口が乏しい現状もあり、2人を含む24人が来県したという。
さらに今年2月には、ミャンマーの送り出し機関に「福井クラス」を設置。福井の介護施設での就労を考えている候補者に、現地の講師が、県勢要覧や地図、福井弁が流れる県のウェブサイトなどを使って、福井の風土や方言を教えていく。県内で働くミャンマー人とオンラインで交流する機会も設ける。
背景には介護業界の人手不足がある。県内の介護関係の有効求人倍率は全職種平均を大きく上回り4.12倍(3月)。さらに国の推計では40年ごろに高齢者人口のピークを迎え、県では毎年新たに180人の介護職員が必要になるとみる。
都会へ流出の懸念、フォローに全力
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