東京・渋谷で2014年から毎月開かれてきた初心者向け落語会「渋谷らくご」(シブラク)が、11月で10周年を迎えた。
「若者の街」というイメージが強い場所で、講談師の神田伯山やいま人気の若手落語家を発掘し、世に送り出してきた。ただ、当初から出演者選びなどを担ってきた漫才師、サンキュータツオは「予算が少なくて、半年で終わると思っていた」。他にも多くの苦労があったが、独自の工夫と挑戦をしながら会を続けてきたサンキュータツオと、出演してきた落語家の林家彦いち、講談師の田辺いちかに話を聞いた。
JR渋谷駅を出て道玄坂の人波をかきわけ、円山町のホテル街を横切ったところに、「渋谷らくご」の会場「ユーロライブ」はある。
16年2月。当時大学生だった記者は「初心者向け」という言葉にひかれ、見に行った。
その日のトリは、神田松之丞(現・神田伯山)。開演1時間以上前から当日券を求める人たちで長蛇の列ができ、客席は満席で立ち見の人もたくさんいた。4人の出演者がそれぞれ自由に語り、時に粗削りで勢いがあった。「お笑いライブ」に近い親しみやすさを感じ、その後、記者は何度もここに通うようになった。
サンキュータツオは「シブラクが掲げてきたマニフェストは、渋谷という土地なので若い人でも楽しめること、新しい切り口で会をすること、演劇やお笑いと落語を並列にすること」という。
そこで、まだキャリアの浅い「二つ目」の落語家や講談師に目をつけ、出演してもらうことにした。「『真打ち』になると一人前ですが、その前の二つ目には型にはまらない勢いのある人が多かった。うまく力を引き出せれば初心者にもとっつきやすくなると感じました」。また、シブラクの始まる1カ月前に東京・神田に二つ目専用の寄席ができて、「一緒に盛り上げられたのもうれしかった」という。
シブラクの立ち上げに関わったのは、10年前、ユーロライブの代表に「来月から落語会をやってくれ」と頼まれたのがきっかけだった。
予算も時間も十分ではなく、ユーロライブには落語家の名前を読めるスタッフもいなかった。なによりも、すでに世間には落語会があふれていた。わざわざ始めるには、これまでにない発想が必要だと感じた。
そもそも、若者の多い渋谷には、落語に親しみのある人は多くないと考えていた。
では、どうやって渋谷に客を呼ぶのか。
考え出したのが、初心者に向けた落語会だった。
「僕が大学で落語研究会に所属していた頃、同世代は落語を聞いていなかった。18歳だった自分が友達を連れて来られるような場所なら、作る意味があるかもしれないと考えました」
初心者向けの落語会を続けて10年。様々な仕掛けを生み出してきたサンキュータツオは今、「これまでと違う目線」の興行が必要になったと語ります。記事の後半では、出演者の林家彦いちと田辺いちかにもシブラクの魅力を聞きました。
ただ、初心者向けの会にはリ…