10年前。

 彼がまだ20歳だった頃、今の年齢をどう捉えているかと尋ねたことがある。

 返ってきたのは、早熟こそが不変の価値を持つ将棋界を生きる者の切実な声だった。

 「もう全然若くないです。もし出来るなら、棋士になった16歳に戻ってやり直したい気持ちもあります」

 あれから10年。浮遊を重ねながら浮上してきた実力者はついに大舞台へと躍り出ることになった。

竜王挑戦権を獲得した佐々木勇気八段=2024年8月13日午後11時14分、東京都渋谷区の将棋会館、北野新太撮影

 将棋の佐々木勇気八段(30)が13日、東京都渋谷区の将棋会館で指された第37期竜王戦(読売新聞社主催)挑戦者決定三番勝負第2局で広瀬章人九段(37)に勝ち、2連勝で藤井聡太竜王(22)=名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖と合わせ七冠=への挑戦権を獲得した。初めてのタイトル挑戦、初めての晴れ舞台となる。

 5日に30歳になったばかり。順調なステップアップに見えて、才能と実力を考えれば「ようやく」の印象も強い。

 スイス・ジュネーブ生まれ…

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