篠田英朗・東京外国語大学教授

 パレスチナ自治区ガザに対するイスラエルの攻撃がやまない。国際法違反との批判は相次ぐが、民間人の犠牲は増え続ける。欧米諸国はなぜイスラエルを支持し、争いはなぜ拡大してしまうのか。国際政治学者の篠田英朗さんは、ガザ危機は新しい思想戦の幕開けになってしまったと語る。「対テロ戦争」対「反植民地主義」という地球規模での対立だ。法の支配をどう取り戻すか。篠田さんに聞いた。

存立の危機にある国際法レジーム

 ――イスラエルによるガザ地区への攻撃は、収まるどころか、他方面に拡大する様相まで見せています。

 「今回のガザ危機は国際法レジーム(体制)の存立の危機であり、過去数十年で最も深刻な『国際秩序への挑戦』だと思います」

 ――その深刻さとは?

 「ガザ地区を含むパレスチナの被占領地域では、1967年以来、イスラエルによる違法な占領が続いてきました。当事者や非難する人々の法的感覚が揺らいでしまうほど長く、違法行為が累積され、違法状態が放置されていたのです」

 「そこに今回、ガザへの違法な攻撃が上積みされました。一般市民の被害を避けようとするそぶりすら見えない。国際法秩序の根幹を揺るがす異常事態です」

世界に浮上した「新しい思想的対立」

 ――イスラエルには国際的批判が高まっていますが、米国や欧州主要国はイスラエルを支持しています。ここにはどんな対立が表れているのでしょうか。

 「新しい思想的対立が世界に浮上してきたことを映す現象だと私は見ます。『アラブの大義』対『ユダヤの大義』という旧来の対立とは異なる、『反植民地主義』対『対テロ戦争』という思想的な対立です」

 「反植民地主義とは、ある地域が強国に植民地化されることに反対する立場です。植民政策の中に潜む、住民に対する人種差別的な排除にも反対します」

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 「象徴的なのは、ガザ危機を…

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