「近所の女性が、夜中に演歌が聞こえると言っている」。東京都多摩市にある多摩ニュータウン・都営愛宕団地。「愛宕3丁目地区」の自治会長、松本俊雄さん(76)の元に2020年、住民から相談が寄せられた。
その家を訪ねると、ほとんど物がない部屋で、高齢の女性が真っ青な顔をして立っていた。1年ほど前に夫を亡くし、一人暮らし。「呪文を唱える声が聞こえる」と話す。松本さんが「幻聴ではないか」と伝えても、瞳は泳ぎ、恐怖におののいているようだった。
夜中に布団を抱え、「玄関先でいいから寝かせてほしい」と近所の人に訴えることもあるという。「放っておけば、さらに悪化する」。週に1~2回、女性の元へ通い始めた。
突然の夫の死、始まった「幻聴」
「いつ死んでもいいように」…