クモの巣のように張りめぐらされた路地裏に、年季の入った住宅がびっしりとひしめき合う。

 3月下旬、1600万人が暮らすトルコの最大都市イスタンブールでも、有数の人口密度の高さで知られるギュルテペ地区を訪ねた。その一角に住むハサン・キュチュクギュレルさん(63)は、築約50年の自宅アパートの前の喫茶店で紅茶をすすりながら肩を落とした。

大地震が起こる確率が高いとされるトルコの最大都市イスタンブールでは、細い路地裏に建物が密集している地区が多い=2024年3月28日、根本晃撮影

 「このあたりの8割ぐらいの建物は崩れると思う。みんな、危険だとわかっていて住んでいます」

 イスタンブールで発生する確率が高いとされる大地震についてどう思うか――。そう問うた私への返答だった。

 85平方メートルの3LDKに、妻と娘と家族3人で暮らす。リビングの柱や浴室の天井には、自分でひび割れを修繕した跡が残る。家の前の道路を大型トラックが走ると、建物全体が揺れるのがわかるという。

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自宅の柱や壁にひびが入るたびに自分で修理しているというキュチュクギュレルさん=2024年3月28日、根本晃撮影

 3年前に脳梗塞(こうそく)を発症し、体の一部にまひが残っている。できる範囲で便利屋業を営んでいるが、収入は多い時で月計1万5千リラ(約7万円)。「(耐震性の高い住宅に住む)金持ちは生き延びられても、私たちのような貧乏人には行き場がない。地震が起きたら死ぬしかありません」

 トルコは日本と並ぶ世界有数の地震国だ。2023年2月にイスタンブールから約800キロ離れたトルコ中南部を震源に発生したマグニチュード(M)7・8の大地震では、国内で5万3千人以上が犠牲になった。

 この経験を経てトルコではいま、「次はイスタンブール」との危機感が高まっている。

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「2030年までに64%の確率で大地震」

 イスタンブールは、トルコ北部を東西に貫く北アナトリア断層のほぼ真上に位置する。このため、歴史上何度も大地震に見舞われてきた。

 近年では、1999年にイス…

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