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がんと告知されて落ち込んでいた時、家族で行った温泉旅行=なりたりえさん提供

 小学生の娘2人を育てている、なりたりえさん。

 2023年12月、乳がんの一種「浸潤性小葉がん」が左胸にあることがわかった。

 数年前に検診でひっかかったことがあったが、がんとは診断されなかった。

 以降、専門の病院で毎年検診を受け続けて、がんと判明。

 マンモグラフィーやエコーでは見つけにくく、早期の発見が難しいタイプだという。

 腫瘍(しゅよう)の大きさは3.9センチで、リンパ節にも転移していた。

 夫と一緒に告知を受けたが、他人事のように冷静に聞くことができた。

 「もし、夫や子どもたちが病気だと言われたら、もっとうろたえて、冷静ではいられなかっただろうな。自分でよかった」

 だが、時間が経つにつれて「私、死ぬのかも」「子どもたちが何歳になるまで生きられるかな」と、怖くなってきた。

 主治医からは「乳房全摘でも部分切除でも、望む方を選んで」と言われた。

 ただ、想定よりも腫瘍が大きい可能性があるので全摘手術の方を勧める、とも言われた。

 今後のためにも完全に取り除きたいと思い、全摘手術を選んだ。

手術前の温泉旅行で

 告知されて落ち込んでいた時、夫が温泉旅行を企画してくれた。

 「雪を見に行こう」と、新潟にある温泉へ行くことに。

 ちょっと奮発した旅館の窓から見えた、雲海のような雪景色。

 温泉も食事も満喫して、娘たちも大喜びだった。

 「この旅館、すごくよかったね」「また来ようよ」と無邪気に笑う娘たち。

 いい旅館だからしょっちゅうは来られないんだよと伝えると、次女がこう言った。

 「そうなんだ。じゃあさ、また、いつか来ようね」

 「いつか」という言葉を聞いて、いろいろなことが頭を駆け巡った。

 もし、がんが転移していたら、手術しても再発したら、「いつか」はやってこないかもしれない。

 普段口にしていた「いつか」は、当たり前に来るわけじゃないんだ。

 「いつか」じゃなく、今を大切にしないといけないんだ。

 そんなことを考えながらも、「うん、またいつか来ようね!」と元気に返事をした。

 約束をすることが、「絶対に治してまた来るんだ」という力になると思ったから。

人生で一番たくさん言ってきた言葉

 手術は無事に終わり、半年間にわたる抗がん剤治療が始まった。

 髪に手ぐしを通すと、たくさ…

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