植物は光合成で、太陽光から有機物を作る。同様に太陽光を使って役立つ物質を作る「人工光合成」の研究が熱を帯びている。特に注目されるのが、次世代のエネルギーとして期待される水素の製造だ。課題は残るが、実用化すれば世の中が大きく変わるかも知れない。
植物は、葉緑体の働きで、太陽光のエネルギーを使って水と二酸化炭素(CO2)から酸素と有機物を合成する。これをまねて、太陽エネルギーによって、水を酸素と水素に分けたり、水と二酸化炭素から酸素と有機物を合成したりするのが、人工光合成だ。
水素製造の分野で注目されるきっかけになったのが「ホンダ・フジシマ効果」だ。
故本多健一・東京大名誉教授と藤嶋昭・元東京理科大学長は、水中に酸化チタンと白金の電極を置いて酸化チタンに光を当てると、水が水素と酸素に分解する反応を発見した。英科学誌ネイチャーに1972年に論文を発表。74年元日の朝日新聞では、「太陽で〝夢の燃料〟」という見出しで一面トップで紹介された。
光のエネルギーで酸化チタンの中に高いエネルギーの電子(励起電子)と電子が抜けた穴(正孔)が生じ、水の還元と酸化が促されて水素と酸素が発生するというのが原理だ。光が当たると化学反応を促進する物質は「光触媒」と呼ばれる。
だが、酸化チタンの場合、太陽光のエネルギーの数%程度に過ぎない紫外線でしかこの反応は起きず、変換効率が低かった。
その後、物質の分解を促す性質や汚れを洗い流す性質などを利用し、外壁や空気清浄機などで実用化されたが、「夢の燃料」は幻に終わった。その後も多くの研究者が、取り組んできたが、太陽光のエネルギーの約半分を占める可視光を利用する材料が見つからなかった。「不可能」とすら考えられ、下火になっていった。
可視光を使えるか 転機になった二つの論文
その壁を打ち破ったのが、信州大特別特任教授・東京大特別教授の堂免一成さんだ。
堂免さんは、博士課程に進む際に、水の分解の研究を始めた。「自然界の光合成と似たような反応がおきることが面白い」という好奇心からだったという。
80年に、電極を使わずにチタン酸ストロンチウムの粉末で、水を分解できると発表。ただ、やはり紫外線でしか反応が起きなかった。
2000年代に入ると、地球温暖化問題もあり、社会実装を目指して本格的に研究をはじめ、候補となる材料やその合成方法を徹底的に調べた。 可視光を利用したいが、反応したとしても、酸化されてすぐに材料自体が劣化し、反応しなくなってしまうのが課題だった。
転機となったのは二つの論文だ。
自宅でネイチャーを読んでい…