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堀田新五郎さんは、惰性からの撤退、つまり生活習慣を変えるには「自分の意志だけでは無理」と話す。「他者と一緒に環境を変えて、それまでとは違うルールをつくっていきましょう」=滝沢美穂子撮影

 「世界は生活習慣病を患っている」。堀田新五郎・奈良県立大学教授(59)は、そう考えて「撤退学」を提唱した。地球温暖化、拡大する格差、頻発する紛争・戦争……これらの課題の解決には病気の治療と同じく、従来の価値観や生活様式を抜本的に変える必要があると警鐘を鳴らす。ずっと続けてきた惰性から「撤退」するには、どうすればいいのか。日々たしなむ「お香」にもヒントがあったと語る。

気分転換、実は重要な作法

 お香を大学の研究室で、よくたきます。仕事が立て込み、気づけば机に向かって1時間以上も固まっていた――そんなときに気分転換で。20年ぐらい続けています。たくのは松栄堂がつくる「芳輪堀川(ほうりんほりかわ)」。いろいろ試して、ちょっと甘い感じが気に入りました。香炉は3年ほど前、娘と一緒に銀閣寺に行った際に買ったものです。

 仕事をはじめ日常に埋没していると、雑念が入り、煩悩が起きるのは仕方ない。それらを可能な限り落とす作法が重要です。私の場合は、お香。心身を整えて、「片足を日常の外に踏み出した」という精神状態をつくりだします。

 日常では惰性の力学が働いています。気候変動をめぐる世界の動きが典型でしょう。京都議定書に続いて、2015年にパリ協定が採択されました。世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて1.5度以内に抑える努力をすると掲げます。一方で、昨年の上昇は1.48度。観測史上、最も暑い1年でした。さまざまな対策を各国が講じましたが、実効性を欠いたのか、状況は悪化しているようにも見えます。多くの人が「まずい」と思っても、やめられない、止まらない。生活習慣病のようです。

 こうした惰性の原因を探り、改善する方策を示したい。すなわち惰性からの撤退。日常から半分外に出て、世の中の常識とは異なる軸を築くのです。「撤退学」と名付け、20年に研究を始めました。

■漫画や映画のようにおもしろ…

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