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プロスケーターの羽生結弦さん(30)が出演し、制作総指揮も務めるアイスショー、アイスストーリーの第3弾「Echoes of Life」が9日、千葉県船橋市のららアリーナ東京ベイで千秋楽を迎えた。
「命とは何か」「私とは何か」といった壮大なテーマについて思索を深めていく物語を、4回転ジャンプやトリプルアクセル(3回転半)を交えながら、氷上で1人で表現した。
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自身で執筆した物語を演じきると、「エコーズがみなさんの人生にとって生きるきっかけになったらうれしいなと思っています。本当にありがとうございました」と語り、8300人で満員になった客席から大きな拍手を受けた。
アンコールでは、代表作でもある「SEIMEI」などを披露。約3時間の公演を滑りきった。
終演後の報道陣との主なやりとりは以下の通り。
――ここでツアーが終わりました。今の気持ちをお願いします。
「とにかく頑張ったなということと、やっぱり、このアイスストーリーというものに、本当に類を見ないぐらい多くの方々が関わって下さって。僕のためにどれだけの方が動いてくれているのか、ということに対しての感謝の気持ちでいっぱいです」
――ご自分で物語を書いて、そして出演。ご自身の中での完成度はどうですか?
「もう、これ以上ないなっていう出来で締めることもできたので、ちょっと放心状態ではあるんですけど。言葉とか文字だけでは僕は表現しきれないし、このアイスストーリーというものはスケートだけでもやっぱり表現しきれない、唯一無二のものだと思っています。今日の演技と演出と物語がこうやって映像で残ったり、また来て下さった、見に来て下さった方々の記憶に残ったりしてくれるのが本当にうれしいなっていう気持ちでいっぱいです」
――ショパンの「バラード第1番」が素晴らしかったと思います。ショーのリンクということで、少し狭く、暗い中で、どう今日は臨みましたか?
「ずっと本当に、最初からかなり苦戦して、改めてショートプログラム……、旧採点ルールの中のショートプログラムで、後半に2回ジャンプを跳ぶ。それがトリプルアクセルと4回転―3回転という難しさを改めて感じました」
「何かフリーとはまた違う緊張感、そしてフリーとは違って、回復する余地がないのがショートプログラムの特徴で。非常にいろんなものが詰まっているからこそフリーよりも難しいんだなということを、今回ツアーを通して改めて感じました」
「その難しいものを、すでにピアノ(バラード第1番)の前に4曲ですかね、4曲やっていて、すでに『つらいなぁ』って思いながら出ていく難しさと。あとはやっぱり照明付きで。これは僕の希望だったんですけど、照明付き、そしてまた会場によってリンクサイズが変わるということもあって、非常に挑戦は難しかったんですが、氷の職人さんも含めて、皆さんが一生懸命やって下さったおかげでなんとかできました」
――まだ終わったばかりですけど、次への構想はありますか?
「ないです。ゼロです。とにかくなんか、ちょっと今放心している状態で、ちょっと頭がうまく回っていないかもしれないんですけど、とにかくこうやって皆さんが集まって下さるのもそうですけれど、『なんて特別なんだろうな』っていうことをしみじみと心に染み込ませながら、〝今〟という時を過ごしています」
――未来へ向けて、どんな生き様を見せていきたいですか?
「僕がこの物語を執筆して、実際ツアーを完走して、自分自身が思った、考えが深まったことの一つなんですけど、『未来なんて、やっぱり誰も分かんないな』っていうことが、一番自分の心の中にこのツアーを滑りながら残ったものです」
「それは北京オリンピックもそうでしたけど、どんなに努力してもやっぱり報われないなって思うこともあるし、どんなに一日一善をして、どんなに良いことを繰り返していたとしても、不幸なことが起こってしまうのが未来だし。だからこそ、簡単にこんな生き様とは言えないんですけど、でも、とりあえず生きている今を、まっすぐ自分の心と自分の正義を信じてまっすぐ進んでいきたいなって気持ちではいます」
――今日の「ダニーボーイ」は静けさを感じました。どういう気持ちで滑っていましたか?
「今思い返しているんですけど、どんな気持ちだったかなって。もう何かその時はもう必死で、うーん、そうですね、とにかく全身で祈るっていうイメージでずっと滑っていました」
「その祈りが、何かダニーボーイのいわゆる原点にある、死者への弔いっていう意味の祈りもあるし、ここに来て下さっている会場の皆さんの希望への祈りであったりとか、僕自身の個人的な幸せへの祈りだったりとか、こうやって(舞台を)作って下さっているスタッフへの祈りだったりとか、本当にごちゃっていろんなものが混ざってしまってはいるんですけど、一緒くたに全部音とともに祈るっていう気持ちで、ただひたすら祈っていました」
――第1弾から第3弾まで進んできて、やっぱり全てに共通して「孤独」というものが一つインスピレーションの源になっていると思います。孤独は、ご自身にとってどういうものですか?
「何かあんまり孤独とは思っていないんですよね。ただ、戦わなきゃいけない時だったり、もちろん人間、誰しもが持っていることだと思うんですけど、全てを共有できるわけではない。何だろう、とても悲しいことだけれども、自分の苦しみだったり、喜びだったりを全部共有できるわけじゃないじゃないですか。それってみんな孤独だなって思っていて」
「でも、だからこそ人間は言葉というものを使うし、文字を使うし、何かそれを(公演で演じた)Novaで表現したかったのは、たとえその世界で1人だったとしても、文字や記録や音とか、そういうものがある限りは1人じゃないんだっていうことを表現したつもりなので」
「僕が孤独だとかっていうのは、そんなにあんまり思ってはないんですけど、最近は。ただ、皆さんの中にあるちょっとした孤独、みんなが気づいてくれない孤独みたいなものに対して、『いや、大丈夫だよ』っていう気持ちで表現したつもりです」
――シーズン中の試合と同じように、公演を重ねるごとにすごく素晴らしいものが出来上がっていました。今回の7公演を経て、また何か越えられたなって思うものってどんなことですか?
「新しいトレーニングもまた始めてみて、可動域を広げるとか、単純に柔軟性が上がるとかっていうだけじゃなくて、使える体の動きと、どれだけリカバリーを早くできるかっていうことと、自分の特徴であるしなやかさ、美しさみたいなものへの磨き方みたいなことを、広島(公演)の直前ぐらいから練習を始めているんですね。それがやっと今回まとまってくれたなっていう感覚で今、います。なので、これからまたどんどん変わっていけるんだなっていう感触が、実感が今はあります」