波打つ茶色い濁流の中に黒っぽい物体が流れていた。大きなゴミのように思えたが、目をこらすと顔が動いている。
人だった。あわてて追いかけた。
8月28日午前6時半ごろ、盛岡市加賀野の中津川沿い。記録的な大雨の影響で、前夜には氾濫(はんらん)危険水位を超え、避難指示が発令された。普段ならば草木が生い茂っている河川敷に勢いよく水が流れていた。
流されたのは市内の20代の女性。勤務先に向かう途中、誤って増水した川に転落したのだった。市内に住む大坪雅夫さん(66)は、ちょうど自転車をとめて安全な路上から川の様子を見ていた。女性はリュックを背負い、仰向けの状態で流されていた。時折、激しい水流にのみ込まれ、沈むこともあった。
「こっちに寄って!」
増水した川を仰向けの状態で流されている女性。このままでは命の危険もある。たまたま見つけた元盛岡市役所職員の大坪さんは、岸辺に寄るように大声で叫びながら追いかけた。
大坪さんは一緒に小走りで下…