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大阪弁で「翻訳」されたカフカの「変身」は、コメディー小説のような装丁だ=坂上武司撮影

 「グレゴール・ザムザはある朝けったいな夢から目が覚めてみたら、ベッドん中で馬鹿でかい虫に変わってる自分に気がついた」

 新旧の日本語訳書があるフランツ・カフカの「変身」の始まりだ。この本は、何かが違う。「けったい?」

 もう少し読み進めると、グレゴールはこう表現した。

 「おれ、どないしてん?」

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難解な「変身」が訳者の西田岳峰さんによる大阪弁で読みやすくなっている=坂上武司撮影

 この本は「大阪弁で読む『変身』」(幻冬舎、税込み1430円)だ。不条理小説の金字塔とも言うべき名著を大阪弁で訳した「世界でただ一つ」の本。2023年11月の発行だが、最近SNSで取り上げられて注目を浴びている。

 SNS上では「大阪弁のなんとかなりそうな感じすごい」「人間に戻られへんくても、『難しいことはわからへんけどまぁええか虫で』と楽しい人生を送りそう」「人間の不条理が描かれてるはずなのに、大阪弁になった途端、喜劇みたいになる」などのコメントが並んだ。

 〈……グレゴールは脚の一本たりとも部屋の踏み入れなんだ。固定してる方のドアにもたれとって、体の半分とかしげた頭しか見えへんかった。その頭でグレゴールはみなのおる方をのぞきこんだ。……「ほな」と口を開いたグレゴールは自覚しとった。冷静さを保っとんのは自分だけやと〉

 描写は大阪弁でテンポよく軽妙に。クスッと笑える「オヤジギャグ」もちりばめてある。大阪弁の注釈も。

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角川文庫の「変身」(左)と「大阪弁で読む『変身』」=坂上武司撮影

 大変失礼ながら、なぜこのような本を作ったのか。訳者に尋ねてみた。

 「『変身』をドタバタコメデ…

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