京都を観光する時、スケジュールに追われて、神社仏閣をハシゴするよりも、出来れば、1日に一つにしぼって、ゆっくり、じっくり訪問した方が心象に残る。せっかく時間をかけて訪問するのだから、寺社にあるいろいろな物語を楽しみたい。京都市北西部の山中に位置する世界遺産・高山寺(こうさんじ)(京都市右京区)はそんな寺の一つだ。

 カエルがウサギを投げ飛ばして、気を吐くシーン。誰もが知る国宝絵巻「鳥獣人物戯画(ちょうじゅうじんぶつぎが)」を所蔵する。作品を保護するため、計4巻のうち、甲巻、丙巻(へいかん)は東京国立博物館、乙巻、丁巻(ていかん)は京都国立博物館に寄託されており、境内にある国宝の石水院(せきすいいん)に複製が展示されている。「鳥獣人物戯画」がいつごろ、なぜ、どうして、都から遠く離れた高山寺に伝来したのかは今も謎のままだ。

石水院に展示されている複製の「明恵上人樹上坐禅像」(部分)

 石水院は、寺の開山である明恵上人(みょうえしょうにん)がいた鎌倉時代の唯一の遺構であり、住宅的な建築様式を今に伝える。1994年に「古都京都の文化財」として世界遺産登録された寺院、神社、城は京都市、京都府宇治市、滋賀県大津市に及ぶ17カ所あるが、高山寺はこの建物の重要性が評価され、世界遺産に登録された。「石水院」の扁額(へんがく)は、明治、大正時代に活躍し、「最後の文人画家」といわれた富岡鉄斎(とみおかてっさい)の筆による。

 山間(やまあい)の小さな寺…

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