車の保有が認められている生活保護受給者について、厚生労働省は25日、通院や通勤などに限られている利用の制限を緩和する通知を自治体に出した。日常生活に不可欠な買い物などでの利用を認める。
生活保護制度では、車は維持費が生計を圧迫するなどとして、原則処分が求められる。ただし、障害がある受給者や公共交通機関の利用が著しく困難な地域に住む受給者が、通院や通勤に使う場合などに限り例外的に保有が認められている。
そのため、これまでは保有が認められたとしても、これらの目的以外の利用は認められていなかった。
今回の通知により、車を保有する障害がある受給者やその家族らが日常生活に不可欠な買い物などでの利用も認められるようになる。また、公共交通機関の利用が著しく困難な地域に住むケースでは、地域の交通事情など個別の状況を踏まえて、買い物などでの利用も可能とした。
一方で、事業用に認められた車については以前の通り、日常生活での利用は原則認められないという。
生活保護受給者の車利用を巡っては、三重県鈴鹿市の障害がある親子が2022年、車の利用状況を記した運転記録を提出する指導に従わなかったため、市が生活保護を停止したのは違法だとして提訴した。一審・津地裁は今年3月、親子の訴えを認めて停止処分を取り消し、日常生活など必要な範囲での車利用を「自立した生活を送ることに資する」と評価した。
この判決を受けて、5月30日の参議院厚労委員会で問われた武見敬三厚生労働相(当時)は、「障害者の自動車保有にかかる取り扱いの考え方については改めて整理をしたい」などと答弁。省内で検討が進んでいた。
鈴鹿市の訴訟は10月に控訴審判決があり、名古屋高裁は一審を支持し、市の控訴を棄却。日常生活で必要な範囲での車利用も一審同様に「自立した生活を送ることに資する面があった」と評価した。
吉永純・花園大学教授(公的扶助論)の話 今回の通知は、障害者などの生活保護利用者が通院などのために保有を認められた車について、買い物などへの使用を認めたもので、遅きに失したとはいえ貴重な運用改善だ。
自治体の敗訴となった名古屋高裁の控訴審判決は買い物などへの利用は「自立した生活を送ることに資する」と明言しており、事業用に認められた車についても買い物などでの利用を禁止する理由はない。
特に地方は公共交通機関が衰退しており、車の保有を厳しく限定する行政の姿勢を転換する必要がある。自立のために必要性があれば、保有自体を広く認めるべきだろう。