【動画】消えゆく魔窟 味園ビルに魅せられて「ニューコンコルド」=佐藤慈子撮影

 赤い布地のソファに、緑やオレンジのランプ。あちらこちらの棚に、酒の小瓶や洋風の人形たちの瞳がきらきらと輝く。その「昭和レトロ」な雰囲気には思わず「かわいい……」とつぶやかずにはいられない。

魔窟。大阪・ミナミの味園ビルはそう呼ばれました。日本最大級のキャバレーやホテルを擁すも、既に閉鎖。個性的な飲み屋が集まった2階もほぼ全ての店が昨年末で営業を終了。令和に残った昭和のビルを記録しました。

 大阪・ミナミの味園ビル2階にあった「ニューコンコルド」。店主の石野奈緒さん(48)が好きで集めた昭和雑貨が部屋中を満たしていた。

 同ビル2階の廊下はロの字形で、ずらりと扉が並んでいた。扉はみんな同じような形。しかし、ひとたび扉を開けば、店主が作り上げたオリジナルの空間が待っていた。ニューコンコルドはポップな色だらけだ。

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「ニューコンコルド」の扉は営業中は開いていて、中をのぞくとカウンター内の店主石野奈緒さんの笑顔が見えた=大阪市中央区、川村さくら撮影

 石野さんは岡山県出身。中学生のころ、大阪の親戚を訪ねた際、ミナミのアメリカ村で人形屋のショーウィンドーに釘付けになった。ソフトビニール人形がきれいにガラスケースに入れられて並んでいた。

 昔の子どものおもちゃだと思っていたソフトビニール人形が、美しく飾られると急におしゃれに見えた。ほれ込んだ。そこから人形に限らず、昭和のデザインの雑貨を収集するようになった。

 「私が特に好きなのはたぶん1970年代前後のデザイン。今は売れるものしか作られないけど、昭和のころはデザインのかっこよさ優先のものが多かったんです」と語る。

 18歳で大阪へ引っ越し、CDショップや古着屋で働きながら通ったのが、月に1度の四天王寺(大阪市天王寺区)の骨董(こっとう)市。好きなデザインの雑貨をこつこつ買い集めた。

 そして2006年、味園ビルに出会った。「何このビル! かわいい!」。1955年にできた昭和のビルに石野さんは心を射抜かれた。それまでバーをやろうなんて思ったことはなかったが、ビルにほれ込んだからにはここで何かやりたい。そうして年内にバーを開いた。

「超音速旅客機」を店名に入れた理由は

 最初の店は「フランス座」と…

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