伝統回帰しながら魅惑的味わいを醸したり、米作りからこだわってうまみを追求したり、危機を乗り越え再生する蔵があったり……。日本酒業界は今世紀になって劇的に「深化」し、左党にとってはこたえられない時代を迎えている。
ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産にも登録され、追い風に乗っているようにも見える日本酒。だが、全国の蔵元をまわってきた酒食ジャーナリストの山本洋子さんから見れば、その足元は盤石どころか、ひたひたと危機が迫っているという。
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日本各地の気候風土に合わせて発展し、精神文化にも深く根ざしている日本酒が世界で評価されるのは、もちろん歓迎すべきことです。ただ、置かれている状況を見れば、とても手放しで喜べる話ではありません。
ここ20年ほど、新世代の意欲的な蔵元や杜氏(とうじ)によって、確かに日本酒は劇的に復活しました。「十四代」や「新政」のように、国内外で人気があり転売市場で10倍以上の価格で流通するプレミアム銘酒もあります。しかし、日本酒の国内出荷量は50年前の4分の1、酒蔵数は半分以下に減っている。中国など海外需要で輸出は伸びたものの、ここ数年は低調です。
何より危機感を抱くのは、他…